天使と悪魔

□Wing1
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「あ、フレン」



「こんにちは、エステリーゼ様」




金髪に青い海色の瞳。
青と白を基準にした私服と爽やかな風貌は、一国の王子のようにも見えるだろう。



「珍しいですね、私服だなんて」


「あ、あの、これは…あはは……
………………………………部下たちに仕事のしすぎだ、休めと…制服を奪われまして…」



「ふふふ…確かに、フレンは頑張りすぎです。休息は大事ですよ」



「はい…すみません」



苦笑いを浮かべている彼に追いうちをかけるように注意を促す。
いつも、いつも、仕事に精を出しすぎていていつ休んでいるのか謎だったのでちょうどいいだろう。




「エステリーゼ様は何をしていらしたんですか?」



「私です?今日もハルルの町に行こうとしてました」




「ハルル…ですか」




また、あの人に会いたくて。
あの声を聞きたくて。





「はい。昨日、ハルルの樹から落ちてしまって…」



「なっ…!エステリーゼ様、大丈夫ですか!?
お怪我はなさっていませんよね…!?」



「大丈夫です。大丈夫ですから落ち着いてください…」





たまに、フレンは過保護です。
私のちょっとしたドジに過剰なほどに反応する。



これも、その一例である。



「ユーリという方が助けてくれました」



「ユー…リ…?」



「はい…。ユーリさんがどうかしました?」




「あ、いえ…。聞いたことのない名だな…と」





考えてみれば、フレンはこの時から様子がおかしかった。
少し挙動不審で…目が泳いでいる。
浮かぶのは困惑の色。迷いの色。
フレンはユーリさんを知っているように思われる。


フレンの言ってることを信じていないわけではない。
ただ、様子がおかしいように思った。



「ユーリさんは悪魔なんです。聞いたことなくて普通です」



「あく…ま……。エステリーゼ様、」



「わかってます。悪魔とは関わるな、ですよね。でも、許してください」




「………………」




フレンは私から目をそらして遠くを見つめていた。
懐かしむように、寂しそうに。


ずっと続くこの雲海の向こう。
そこには人間たちが住む世界ーーー私たちは下界と呼ぶーーーがある。
たくさんの人間が生まれ、死んで。


ある者は天使に。


ある者は悪魔に。



そしてまたある者は再び人間に生まれ変わる。



その魂の転生を管理するのが天使。

魂を天へ送り届けるのが悪魔である。



「…私、行ってきますね」



「無事に、帰ってきてください」




「………はい」




思いっきり翼を広げ、飛び降りるーーーー…
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