天使と悪魔

□Prologue
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「え、あ、きゃあああああああ!」












それは、ちょっとしたミスでした。

暢気に、樹の枝に座って、雲を目で追って。
ただそんなことをしていただけでした。


―――――地面にぶつかる


怪我をするだろうなぁとか、痛いだろうなぁ、とか。
そんなことを暢気に考えて、やがて来るだろう衝撃に目をつむる。


………………………………?





「あ、あれ…?」





いくら待ってもその衝撃はこない。




「大丈夫か?」



上から降ってきた声に顔を上げる。





――――――――堕ちるのは、一瞬でした。






「――――――――っ」



優しく細められた紫水晶の瞳。
どこまでも澄んだ色をしていて、その中に吸い込まれてしまいそうで。



「あ、あの…」




背に流されている長い黒髪は美しく、艶やかで。



「怪我はなさそうだな」



整ったその顔立ちで笑う表情はとても儚くて。寂しくて。――――美しくて。


そっと私を地面に下ろして、



「天使でも樹から落ちるんだな」



っと、笑っていた。




「な、わ、笑わないでください!」




「…くっ、はは…わりぃ、わりぃ…」



「全然悪いと思ってないでしょう!」



笑いやんだと 思ったら急に真剣な顔になって、




「次は気を付けろよ」




―――――――――ああ、なんてことだろう。




「は、はい…」




―――――――天使は、悪魔に恋をしてしまいました。




彼の背にあるあの漆黒の翼。
それはまさしく悪魔である証拠。
でも、彼にあっていると思ってしまって。




「じゃ、俺は行くな」




「あ、あの!」




思わず呼び止めて、




「な、名前を教えてください!!」





彼の名前を聞いて。





「俺の名前はユーリだ!」




そう最後に言って飛びさっていく彼の背を見つめて。




「ユー………リ…………」




ああ、なんてことだろう。




天使は悪魔に恋をしました。




最初から叶うことのない恋。





最初から結ばれることなんてできない恋。





天使は知らずと、涙を流した…




執筆 H25.4.25.木

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