短編集

□魔王と救世主に恋の5題
2ページ/6ページ






私と彼が初めて出会ったのは、そう、戦いの時でした。
私が魔王を討伐するため、この城に来た時。



「魔王!覚悟しなさい!です!!」



バンッと思い切り扉を開けた先に彼はいた。


…いたのだけれど。



「ん?」



彼は暢気にケーキを食べていたのだ。




「…お前も食うか?」



と、そばにあったキレイで美味しそうなケーキを差し出す。



「馬鹿にしてるんです!?私は貴方を倒しに来たんです!覚悟してください!!」



剣を構え、襲いかかるが意図も簡単にひょいと避わされ、何度もやるも、一度も当たらず。
そして終いには彼の出した足に引っかけら
れ、転倒してしまった。



「そんなに慌ててもいいことねーぞ。」



「貴方には危機感とか、場の流れを読むとか、ないんですか!?」



「あいにくとねーな。」



そしてまた一口、ケーキを食べる。
気の抜けた彼の様子に、苛立ちも通り越して呆れてしまった。



「よくこんな状況でもケーキなんて食べていられますね。」



「好きだからな。」



そう言ってまた一口、ケーキを食べる。
柔らかい生クリームが、彼の口の中へ消えていく。


ああ…これ以上何か言っても無駄だな、と思って。
彼の傍らにあったケーキを手にとって食べる。



「……………美味しい。」



「だろ?俺が作ったんだ。小さい頃に食べさせてもらった…帝国で食べられてるケーキ。
魔族は…ケーキなんてもん、まず食わねーから。」



少し黄昏た表情で魔王は言った。
その儚げで、寂しげな表情は、とても美しく、絵に描いたようでした。


心臓が大きく脈をうつ。




「人間も魔族も、結局は同じ命なのにな。なんで争わなきゃいけねーんだろーな…」




この人は優しいんだ、と知った。
手にしていたフォークは音を立てて落ちていき、




「………勇者?」




ポロポロと、涙がこぼれた。


私は、この人と、生きたいと思ってしまった。
倒すべき…殺すべき、存在なのに。






2.争いが運命というなら恋に落ちたのも運命なのに



残酷な、運命だ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ