めいこい
□恋ノ標ハ君ガ持ツ。
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「あぅ〜...」
完全に鏡花は倒れ込んでしまった。
音二郎に明治座で行う演目の台本を書いて欲しいと急かし迫られたのもあり、連日寝る間も惜しんで原稿と格闘していたからだ。
「もう、ダメだ....」
遂に睡魔で彼の意識は遠のいた。
「うー。むにゃ。......ハァ?!?!!?」
「あ、そんな急に飛び起きたら駄目ですよ鏡花さん」
「なんでアンタがいるんだよっ!」
「そろそろ鏡花さんが連日の寝不足で倒れている頃かなって思って..」
全く察しの良い女だ。
「何で来るんだよ...こんな姿この子に見せたくなかったのに...ブツブツ」
鏡花も男だ。
弱った姿を見られたことが余程恥ずかしかったのだろう。
本当は赤くなった顔を隠すために布団に埋まったのだが。
「あの、鏡花さん」
「何だよぉ!」
「睡眠の邪魔になるといけませんし、私帰りますね..。」
彼女にはそれが、自分の行動が鏡花にとって迷惑になってしまったのだと思った。
初心な彼であるが故、この勘違いは無理もない。
「え..」
「とりあえず顔が見れて良かった。ちゃんと寝てくださいね?おやすみなさい」
そう言い残し立ち去ろうとした彼女の袴の袖を鏡花は咄嗟に引っ張った。
「ちょっと待ちなよ!!」
「え?」
それは彼自身も予期せぬことであった。
「せ、折角来たならまだ居ればいいだろっ」
「え、でも..」
「ボクなら別に大丈夫だから!.....むしろアンタが居てくれた方が休まるっていうか..」
自身でも自覚できるほどの必死さである。
それに気づくのに時間はかからず、言い終わってすぐにまた布団に顔を埋めた。
「もしかして鏡花さん...、照れてます?」
「ぬぁっ!」
嫌なところに気づかれて言葉を失う鏡花に更に追い討ちをかけるように彼女は微笑む。
「ふふっ」
「な、何が可笑しいんだよぉ!」
「ごめんなさい、鏡花さんは可愛らしいなって」
「ハァ?!僕は男だ!!」
腹立たしくなった鏡花だったが、彼女の笑顔を見ていると不思議と怒りが消えていってしまう。
彼女には嘘はつけないのだと、敵わないのだと痛感したのだ。
「そんな鏡花さんも好きですよ」
「っ.....当たり前だろ」
恋ノ標ハ君ガ持ツ
君はいつだって僕を恋する事へ導く
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