VA main
□憧れの人
1ページ/1ページ
..Next Day*..
昨日、浪川大輔さんのマネージャー業を引き受けた私は今日初顔合わせをする事になった。
昨日あれから社長に ”顔合わせは早い方がいいだろう” と、セッティングして頂いたのだ。
社長は相変わらず決定したことに対して実行が早い。
(ちょっと心の準備がまだできてないや...)
事態が事態なので時間が経っても夢を見ているような感覚だった。
普段より早く目覚めた私は、声優を目指すなら持っておいた方が良いだろうと上京する前に購入していたスーツに袖を通す。
「まさかこれが役に立つ時が来るとは思わなかったな」
そんな事を思いながら1人苦笑し、着慣れないスーツと履き慣れないブラックヒールに身を包み、
緊張する身体を事務所へと移動させた。
「おはようございます!!」
言われた通り社長室へ。奥に居る社長が顔を出す。
そしてそこには…
「あ、おはよう。初めまして!君が風香、ちゃん?」
浪川さんだ‥っ!!!
分かっていたことだがご本人との対面に感動してしまう。
いけない、挨拶しないと!!
まじまじとつい見とれてしまっていては失礼だと気を取り直す。
「は、初めまして..!水野風香です。今日から浪川さんのマネージャーとして精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!!」
私は浪川さんにぺこりとお辞儀をする。
なんとか落ち着いて言えたものの、内心 緊張で倒れてしまいそうだ。
同じ事務所に居ながら、お会いするのは今日が初めてなのだから。
「浪川です!えっと、そんな固くならず気軽に接してくれて良いよ(笑)今日からよろしくね〜」
爽やかな笑顔だ。
手を差し伸べてきて下さったので、返事をし、私達は笑顔で握手を交わした。
それから社長が浪川さんのマネジメント内容やお仕事についての詳細を話して下さった。
スケジュール管理や現場同行 等。
一般的な職務から声優のマネジメントならではのケアやサポートまで、幅広い仕事内容だった。
最初は分からないことも多いだろうから自分にも聞いて欲しい と、浪川さんが言ってくれて。
お話ししていく内に優しい方だと知ったし 早く仕事を覚えていかなくちゃという決意が固まった。
一通り説明し終わった後、社長が浪川さんのスケジュールが書かれた書類とスケジュール帳を
私に手渡し、ソファーに座り直す。
「これに書いて管理していくといい。..早速なんだがこれから現場に向かってくれ」
「わ、わかりました!」
私と浪川さんは事務所の車に乗り込み、収録現場に向かった。
-------------
(どうしよう、どうしよう!!!!)
現場に着き、内容の確認と軽いリハーサルが行われている真っ最中。
私はスタジオブースのガラスの外で見学をさせて頂いている。
のは良かったのだが、
仕事とはラジオ番組でそのタイトルは【つまみは塩だけ】。
お気づきだろうか。
この現場こそが私にとって極度の緊張を生んでいることを。
何故ならこのラジオ番組は浪川さんと、森久保祥太郎さんのお二人の番組だからだ。
初同行現場でまさか森久保さんにお会い出来るとは到底思うわけがない。
この現実は流石に正気でいられるわけが無く、信じられなかった。
そんなわたしの気持ちをよそに番組収録、
本番がスタートした。
『森久保祥太郎、浪川大輔。つまみは塩だけ今週も〜?』
『『カンパ〜イ』』
つまみは塩だけは大人気声優の森久保祥太郎さんと浪川大輔さんが、毎回お題についてのリスナーの投稿をSNSで募集し、
そのネタを見ながら30分間、語らうという大人気ラジオ。
ラジオ番組特有のコーナーを作らずに放送するのが特徴的で今までにない斬新な発想と仲の良いお二人だから出来るリアルな話が特に魅力なのだ。
もちろん私も毎週拝聴させて頂いている大好きなラジオ番組なわけで。
でもすごいな…。
昨日、社長から浪川さんの新しいマネージャーの話を頂いて、
ずっと憧れていた森久保祥太郎さん、大好きなラジオの収録が目の前のこの一枚のガラスの向こうで行われているなんて‥。
私はガラスに手を当てながら収録風景を眺めていた。
収録が始まって10分程が経ったその時 浪川さんが話を変えた。
『ー…そういえば新しいマネージャーの子がついたんすよ。その子が可愛くて!今そこで見てくれてるんすけど』
浪川さんが私に手を振る。
(え!?私の事!?)
まさかラジオで自分の話題になるとは思いもしない。
その場のスタッフの視線が一気に私に集中する。そして....、
『そうなの?え!どの子?』
『そこのスタッフの隣の子っす』
ドキッ
森久保さんと目が合う。
『ほんとだ!可愛い子だね〜!浪川くんには勿体ないんじゃない!?』
『なんすか、それ〜(笑)』
"可愛い子"
森久保さんの言葉に胸がドキドキした。
目が合った瞬間の胸の高鳴り。
結局私は収録が終わるまで心拍数が下がる事はなかった。
--------
「3・2・1…お疲れ様でした〜!」
あれからかれこれ1時間ほどが経ち、
スタッフの声が掛かる。
すると森久保さんと浪川さんがブースから出てきた。
「ありがとうございましたー!…ちょっと大輔、今日喋り過ぎたんじゃない??」
「そうかもしれないすね(笑)」
と、とりあえず挨拶しに行こう。
「浪川さん、お疲れ様です!」
「うん、ありがと〜。」
浪川さんが和かに返してくれたので
今度はついに森久保さんに体を向ける。
「も、森久保さん、お疲れ様です!初めまして!水野 風香と申します!き、今日から新しく浪川さんのマネージャーをやらせていただいてます。」
私はペコリと森久保さんに向かってお辞儀する。
うわああ..凄く吃ってしまった...。
恥ずかしくて一気に顔がカァっと熱くなった。
でも、そんな私に森久保さんは小さく笑って。
「お疲れ様。じゃあ風香ちゃん。大輔をよろしくね」
「..は、はい!」
本当に夢みたいだ。
今私森久保さんと話していて、名前を呼んで下さっているなんて。
ずっと尊敬していた。
森久保さんに憧れてこの世界に入った。
いつか一緒にお仕事をして、お会いできたときにはこの気持ちを伝えたいなって。
「あのっ森久保さん!私、小さい頃、森久保さんのご出演されているアニメを見て、憧れてこの世界に入ったんです。その、森久保さんを尊敬しています...!!!」
私は固まる体で今までの想いを森久保さんに精一杯伝えた。
「ありがとう!」
彼はそう一言、微笑みながら言った。
「じゃあ、大輔、風香ちゃん、またね」
「お疲れ様っす」
森久保さんはマネージャーさんと次の現場へと向かわれた。
(...ふぅ....)
き、緊張した....。
私は肩の力を抜いて深く息を吐いた。
でも、伝えられてすごく嬉しかったな…。
私は去っていく森久保さんの背中を 見えなくなるまで呆然と眺めていた。
憧れていた人(風香ちゃん、か)
(なんか可愛い子だな)--------------
2人の口調が迷子です(´;ω;`)笑