Voice story

□不器用な愛情
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"愛する彼女へ素敵なプレゼントを送りたいアナタ。
バレンタインデーのお返しにラブリーネックレスは如何ですか"



「ハァー。なんだかな〜。」


仕事が終わり暗くなりはじめた街を歩けば、至る所から聞こえてくる宣伝広告。
目にチラつくホワイトデーの文字。

世の中バレンタインデーやらお返しやらとカップルが騒いでいるが、俺はそういうのがずっと苦手だった。
そう。今の彼女と出会う前までは。

そんな自分が彼女と付き合うようなってから、どうも考え方が180度変わってしまった。
今も品を手に取り吟味するも思い悩み、店の中を行ったり来たりしている。


(風香、何あげたら喜ぶんだ?わっかんねぇ〜...)


女物に疎いせいで俺は彼女の好みが分からなかった。

悩んだ末、やはり自分では決められそうもなく店内で一番推しているらしい商品を手に取る。
まず間違いが無いはず、そう思ったからだ。
そんなこんなでレジまで辿り着いた。


「あ、コレ包んでください」
「ホワイトデーのお返しでしょうか?」


シーズン的にごく自然な事なのに、自分にとっては慣れない質問なだけに一瞬戸惑うも頷いた。


「承知致しました。シールはどれにされますか?」


数種類のシールが目の前に広げられ、いつもなら “あー、何でもいいです” と答えるはずなのだが。
それっぽいハートを、らしくも無く選択した。



「ー・・・お待たせ致しました、ありがとうございました〜」


包装までしてもらったわけだが何だかありきたりだなと思い返し、
納得がいかないまま帰宅した。


既製品でホイッと渡すだけじゃ真心が足りない気がする。
それだけじゃ気持ちが表せそうもないのだ。
今回ばかりは。

俺が心を込めてあいつにプレゼントできるものは何があるのだろうか。


「飯、作るか」


何度か振る舞い、その度に美味しいと目を輝かせていた彼女を思い出した。
近頃は作る機会も無かった為、きっと喜んでくれるだろうとスケジュール帳に手を伸ばす。
幸運にも明日の仕事は午前中にあるアニメ収録1本だった。
1話のみのゲスト出演だからきっと早く上がれる。
思い立った俺は詳細は伏せたまま明日家に来てくれという旨だけを彼女にLINEで送った。




「うっしゃ、できた」


何となく自分が思う女子が好きそうなメニュー、そして彼女に評判が良かったものを何品か完成させる。
彼女の笑顔が安易に想像出来、無意識に顔が緩んだ。

掛け時計に目をやるとそろそろ自分が指定した時間になっていたのでテーブルに並べていると、


ピンポーン


チャイムが鳴る。
心做しか気持ちに高鳴りを覚えながら玄関へ向かう。


『裕さん、風香です』
「おう、入れよ」


ドアを開けると愛しい彼女。


「今日はどうしたの?急に裕さんから連絡くれるなんて珍しくて驚いちゃいました」
「仕事帰りに悪ぃな」


“いえ、凄く嬉しくて仕事中もルンルンでした”なんてはにかむ彼女にさらに愛おしさを覚えつつ、リビングへ促す。

テーブルに並んだ料理を見て彼女は驚いた表情をした。


「風香、今日は何の日?」
「あ、」


納得した様子。
どうやら呼ばれた意図が分かっていなかったらしい。
そんな所が彼女らしいのだけれど。


「これ、私の為に..?」
「色々考えたんだけど俺こんなもんしか思いつかんかった」
「めちゃくちゃ嬉しい!」


料理を美味しそうに食べる風香を見ていると何とも言えぬ幸せさで心まで満たされていく。
会う度に俺は風香に惚れているのだと痛感させられるのだ。
どちらが上という訳でもなく、年齢差を感じさせない程同じ歩幅で安心して一緒にいる事が出来る。
もうこんな女には一生出会えないだろう。


「ご飯本当に美味しかったです。裕さん忙しいのに..ありがとうございます!」
「ん、そんなら良かった!」


満足気な彼女に安心した俺は、例のものをカバンから取り出した。


「あと、さ。これもやるよ」


納得せず渡そうかすらも迷ったが、あれ程悩んで選んだモノ。
不器用な俺を見捨てず今まで付いてきてくれた彼女の事だから大丈夫だと思えた。


「え、これラブリーネックレス・・・?最近恋人の間で流行ってるコレを裕さんが?」
「な、なんだよ。目障りなくれーに宣伝してたんだよ!」
「裕さん...かわいい」
「うるせーわ...」


恥ずかしさから目を逸らす。
そんな俺の横でくすっと笑い声が聞こえた。


「嘘です。ちょっと意外だっただけです、裕さんこういうの煙たがるのかなって思ってたから。」


自分でもそう思う。
なのに風香といるとどんどん今まで自分が嫌煙してきた典型的な彼氏になっていく。
それも何故か嫌じゃないんだ。


「・・・いいから後ろ向けよ」
「うん」


髪をどけると綺麗なうなじが露になる。
軽く動揺したのか少々手こずったが、彼女は振り返り俺ににっこりと笑った。


「ありがとう、裕さんっ」


それがあまりにも眩しくて。
思うより先に体が勝手に彼女を抱きしめていた。


「それは俺の方だわ。風香いつも一緒に居てくれてありがとう」








不器用な愛情

(だけどそれが最高の愛情)





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