Voice story

□休日の朝
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「しんちゃん。起きて。朝だよ。」


カーテンの隙間から朝日が漏れ出し、何処からともなく小鳥のさえずりが聞こえ出してきた頃。
私の隣に居るのはスヤスヤと気持ちよさそうに眠る大好きな彼。
そんな寝顔に幸せを感じながら、まずは小さく声を掛ける。

案の定、彼は少しの唸り声だけで目も開けないまますぐにまた寝息を立て始める。
さあ、どうやって起こそうか。


「しんちゃーん?もしもし?おーきーーてよー。ねえねえ」


今度は声を掛けながら軽く彼の頬をツンツンと突いてみる。


「んー・・・」


また眠りを再開しようとする彼。
仕事が連日続き、彼のたまにしか取れない久しぶりのオフ。
疲れているだろうから眠らせてあげたいけれど。
彼は昨夜帰ってきたら早々にベッドに倒れ込んでイン。
そのままこのように朝まで眠ってしまっている。
だからもう充分睡眠は摂れている、はず。


「起きてよー!久しぶりに今日は2人でゆっくりしよー?」


今度は大きく体を揺さぶってみる。
すると、


「...........やだ。」
「.....っ」


何ということだ。嫌、だと?
私はもうなす術が無くとうとう困り果ててしまった。
彼を起こすのは諦めようとしたその時だった。


「ニャー」


突如、飼猫のリリィがベッドに登ってきて彼の頭に乗り頬を舐めだしたのだ。



「...うー。リリィー?わかったわかった。起きるからもうやめて...くすぐったい....」


そう言ってリリィを撫でると、むくりと起きて眠そうに目を擦りながら
洗面所にふらふらと向かって行った。


「なにそれ...」


彼女が一生懸命起こしても微動だにしなかったのに。
猫のちょっとした行動には反応して起きるのかと私は朝から絶望を感じた。





着替え終わって、彼が愛猫に餌をやり美味しそうにカリカリと食べ始めるのを確認すると、リビングの食卓に席つきTVをつけて朝のワイドショーを見ながら二人一緒に朝ご飯を食べる。
こんなのんびりした休日はとても久しぶりで自然と顔がほころんでいた。

朝ご飯が終わった後。
ソファで新聞を読みながら、この議員はどうだのあの方針は間違っているだのと最近の政治体制に対してぶつぶつと不満を漏らしている彼に、
食器洗いを済ませた私は以前お揃いで買ったお気に入りのマグカップにコーヒーを淹れ、彼の隣に腰を下ろした。


「はい、しんちゃん。コーヒー。」
「おん。さんきゅ。」


新聞から目を離さずに私からカップを受け取って、ズルズルとコーヒーを飲み始める。
これは暫く構ってもらえそうにない。

若干拗ねを覚えた私はリリィを自分の膝に乗せてその柔らかな肌触りの良い毛を解くように撫で始めた。


(暇だなあ)


暫く撫でたのち横目で彼を見やると、眼鏡を外していた。
どうやら読み終わったようだ。
これでやっと私との時間が始まる、と思った矢先に視線が向けられたのはリリィだった。


「はぁー。安心する」


主人に頭を撫でられて気持ちが良さそうにするリリィ。
満足そうにニャーと鳴いてふさふさの尻尾を優雅に振っている。


(むっ。なんか、羨ましい...)


見慣れているはずのこの光景が急に妬ましく思った私は、彼の肩に頭を乗せた。
そして猫のように、鳴いてみた。


「にゃ〜」


私、何言ってるんだろう。


「..え?なに。今お前が鳴いたの?」


恥ずかしさから私は俯いた。


「風香、誘ってんの?」
「へぇっ?!ち、ちがっ」


自分の猫に対する幼稚なジェラシーで仕様も無い誤解を生んでしまったとあたふたと焦り出す。


「違うならなんでそんなことしてんの」

「し、しんちゃん全然構ってくれないんだもん、寂しくなっちゃっただけだよっ!」


こんな風に正直なことを素直に言っちゃうなんて。
よっぽど自分は寂しくてたまらなかったのだろう。


「..あんね、猫に妬いてどーすんの。」


彼はため息を付いてリリィをソファから降ろす。
呆れられちゃったかな..。


「ごめんって、風香が寂しいって気付いてたよ。俺も意地悪してた」

「もぅ」


クスッと小さく笑う彼。
そして最大限に拗ねてみるわたし。


「ねー、許してくんないの」
「やだよだ」


ちゅっ


突然優しく降ってきたキス。
とても驚いてしまう。


「これでも、ダメなの?」
「だ、だめ」

「強情だなぁ」


我慢して強がる私を折らせようと、次から次へとくる口付け。
息をする事さえも余儀なくされる。


「しんちゃ..っ、んっ」


彼はずるい。
私を冷たく焦らして知らないようなふりをするくせに、私が訴えるとすぐに優しさを魅せてくるのだから。



「いじわる..」

「それ、今更なの?」

「いつも思ってるもん」

「それは流石に心外だわ(笑)」

「しんちゃん」

「ん?」

「...大好き」

「それも今更なの?」

「ヒドイ」

「うーそ。...風香、愛してんぞ」









休日の朝

それはとても幸せな時間



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