Voice story

□only for you
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「翔太のバカ...‼‼」


私は部屋を飛び出した。
後ろで 驚いた彼の声がしたけど振り返らなかった。








事の初めは1か月も前からのことだ。
仕事が忙しい と言って翔太はほとんど会ってもくれない。
彼の都合のいい日を尋ねてみても返ってきたのは、ごめん また連絡するね とだけ書かれたそっけ無いメールだけだった。

今までこんなこと無かったのにな。
仕事が忙しくなってきても、メールの返信が遅くなった時には必ず電話をして来てくれたし、
”会いたい” と言うのはいつも彼の方からだった。
だからここ最近は私からも連絡をする事を控えている。

もう愛想尽かされた?
それとも私が重くてしつこいから嫌われてしまったのだろうか?
そんな嫌な思考ばかりが働いてしまう。


(会いたいな..声が、聴きたい)



そう思ったら、考えるより先に体が動いた。


翔太の所属事務所の女社長さんに電話でスケジュールを聞き出すと、丁度今日の仕事をすべて終えて台本を自宅に持ち帰ったとのことだった。

これはチャンスかも知れない。
私はコートを羽織り、足早に翔太の自宅マンションへと向かった。



(明かりがついてる.....)


外から見ると翔太の部屋には明かりが灯されているのが分かった。
少しの苛立ちと避けられていることへの疑問を抱きながらインターホンを押した。



『はーいっ』

ガチャ


ドアが開き、私がずっと会い焦がれていた彼の姿が現れる。
なんだ、とても元気そうじゃない。
苛立ち、というよりかは素直に嬉しかった。
本当は彼に感情をぶつけてやろうと思って訪問してきた訳だけれど。
実際に翔太の顔を見れただけですごく安心している自分が居て。
別にもうこのまま帰っても良いかななんて感覚になっていたけれど。


「..!風香..。」


わたしを見て目を見開くほど驚いた表情をする翔太。
そりゃびっくりするか。
何かやましい事でもあるのだろうから。
彼の反応を見たら元の感情が蘇ってきてしまって、とうとう私は抑えきれなくなった。


「ねぇ、なんで連絡くれないの..?」
「ごめん」

「私ずっと悩んでたんだよ..?」
「ごめん...」


何を訴えても謝る事しかしない翔太。


「コソコソ1人で何してるの?」
「......それはまだ言えない。」


あぁ、もう無理だ。
止められない。


「私のこと、嫌いになった...??」
「それは違うっ!!!」


全力で否定する彼の姿。
今の私にはそれさえも更に怪しく見えた。


「何も違わないじゃん...っ‼!」


思わず声を荒らげてしまう。
私の視界はもう涙で歪んでしまっていた。
翔太はびっくりしていたけど、しばらくして小さく息を吐くと何かを諦めたように口を開いた。


「...分かった。部屋、入って」


もう終わりなんだと思った。
別れ話をする為に翔太は私を部屋に入れるんだ、と。
暗い顔のまま言われた通りに彼の部屋へ踏み入れる。
リビングに入った瞬間、私は目を疑った。


「なに、これ...」



"Happy Birthday to 風香!!!!"


でかでかと書かれた大きなボードがぶら下げられ、
沢山のパーティーグッズや煌びやかな小物たちが部屋1面を彩っている。
それはとても可愛かった。
多分これは全て翔太が手作りした物だ。


「忘れてた」


明日は、私の誕生日。
自分で忘れていた日を翔太は覚えていてくれて、こっそりその日の為にずっと準備してくれていたんだ。
この部屋に詰めた翔太の想いはすべて私の為だと分かった。


(....?)


部屋を見渡した後テーブルにふと目を向けると、そこには可愛らしい便箋の手紙が置かれていた。
書いているところだったのか、ペンが転がっている。


「これ..、読んでもいい?」
「うん。」




"風香へ

お誕生日おめでとう!

記念日を祝えるのはこれで何回目だろうね?
最初の頃は何ヶ月記念日だとかで一緒にケーキ食べてお祝いしたりしてたよね(笑)
あの頃に比べて僕は大分忙しくなってきてやっと自信を持って仕事が出来るようにまでなった。
これね、全部支えてくれた風香のおかげなんだよ!
応援してくれるお陰でいつの間にか僕の夢がふたりの夢になった。ありがとう。
本当に感謝してるんやからなー?(´ε` )

会えない日が続くけど毎日風香の事考えてるし、会いたいって心底思ってる。
僕も忙しさに負けないで風香との時間をもっと増やしていきたい。
今度ゆっくりデートしようね!☆

最後に、改めて誕生日おめでとう。
生まれてきてくれてありがとう、
僕と出会ってくれて本当にありがとう。
風香が応援してくれるファンの中で一番で、一番大切な彼女です。
ずっと僕の隣に居てください。
そして "


こんな事を思っていてくれたんだ。
彼の気持ちを知った途端、先程まで自分を支配していた怒りなんてどこかへ行ってしまっていて。
視界が滲み始めている。


「あれ..途中...?」


読み終わってからこの手紙が便箋の最後の行で止まっているのに気付いた。
少しだけ不審に思っていると、翔太が私の近くに来て。


「愛してるよ...」
「..っ!」

「翔太より......これで完成だったんだ。」


言い終わった瞬間、目を伏せて悲しそうな表情をする、
それからすぐに彼が急に私の手を取り優しく抱きしめた。


「ごめん..。俺、自分が風香を喜ばせるんだって事しか考えてなくて。逆に風香を悲しませてしまうことになるなんて。...ほんっと情けないよ」


彼の喉からしぼりだすような声。
私を抱く腕の力が強くなる。

私はそんな彼の想いに耐え切れなくて、そっと彼の腰に腕を回して抱き返した。


「翔太..ありがとう。私、ここ最近すごく悲しかったけど翔太なりに私を喜ばせる為にずっと準備してくれてたんだね。。理由も言ってくれないし、会ってくれなかった事は悲しかったけど....自分の中で勝手に勘違いしててごめんね。私も翔太が大好きだからもっと一緒にいたい。」
「風香....」


やっと彼の笑顔が見られた。
ずっと私が見たかった彼の顔だ。
私もなんだかとても嬉しくなってつられて笑顔になる。


「風香。今日、ウチ泊まる?」
「え?」
「明日も仕事あるけど朝早くじゃないし。...今日は一緒にいたい。」
「翔太..。私も一緒にいたい。」

「よかった!じゃあこのまま風香の誕生日のお祝いしよっ」
「うん!」


それからは本当に楽しい時間で。
今日は人生で一番の日なんじゃないかってくらいにとても幸せを感じた。










only for you
全ては大好きな君のためだけに



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