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□秘密
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その後は高橋さんに、あの場所は研究室なのだということだけ告げられた。
私は無断入室したことを謝って地下エリアを後にした。


(気になる...)


あの少年が何故あの場所に居たのかは分からないけれど、
また気晴らしに高橋さんの元へは行こうと思った。




「・・・ーではこのような感じでお薬の服用を続けてください。」
「はい。ありがとうございました」


後日、私は定期診察の為病院に訪れていた。
受付で支払いと薬の処方を済ませて、後はもう帰るだけだったのだが。


(高橋さんのとこ、行こうかな?)


あれから高橋さんに病状の事を聞いてもらって以来、何だか自分の病気に対して前向きになれた気がする。
自然と誰かに頼りたい という思いが強くなっていた。



「こんにちは〜」


メンタルセンターへ訪れてみるも高橋さんは不在らしい。
待ってみようかなとも思ったが次回また来ようと思い、帰る事にする。

途中、病室が並ぶ廊下を歩いていると何処からか声が聞こえてきた。


(歌...?)


何処から聞こえてくるのだろうかと歌声を辿って行くと、とある病室の前まで来た。
私は声の主を知りたくて少し開いているドアを覗いてみる。


(っ!!)


あの少年だ。何で患者病棟に?
私はそんな驚きよりも、あまりに透き通った美しい声に思わず見惚れていた。
何もかもが浄化されてゆくようなまるで天使のような歌声に。


「わあ〜!やっぱりあいちゃんお歌上手!!!」


キラキラと目を輝かせて喜ぶ子供。
どうやらこの階は小児病棟らしい。


「そう?ありがと」
「あいちゃ!また歌いに来てね!!」
「うん、また来るね。」


そう言うと席を立ち、つかつかとこちらの方へ歩いてくるのが見えて。
まずい、そう思った時にはもう遅かった。


「ん、誰...?」
「あっ...」
「君。どうしてこんなところに突っ立ってるの」


彼の冷ややかな瞳に見据えられて一瞬何も言えなくなる。


「あ、えっと。綺麗な歌声が聴こえて、それで誰なのか気になっちゃって..」
「あ、そう。」


そのまま立ち去ろうとする彼を思わず引き止める。


「ま、待って!…あなた、何でいつも病院にいるの?この間の部屋は何?」

「................ついてきて。」


少年は少し目を伏せてからそう答えると、歩き出してしまう。
私は言われた通りに後を追った。




彼が向かった先は屋上。
時刻は夕方で、空はほのかに赤く色付きはじめている。
少年がベンチに腰掛けたので微妙に距離を保って私も隣に座る。


「綺麗ですね」


夕焼けに黄昏ていると少年はふと口を開いた。


「あの子、大きな手術が決まったんだ。」


先程の男の子の事を言っているのだろう。


「生まれつきの難病で手術もリスクが高いものらしいんだ。」
「そう、なんですか..」
「生きようと必死にもがいている。」


あの子も頑張ってるんだ..。
あんな小さな身体でも罪なく襲う病に怖気付く。
すると、急に少年は私の方へ体を向ける。
そして私の手を取るとそれを自身の胸に当てた。


「えっ!なにをっ?」


平らな男子の胸に吾の手が当てがっているのがわかった瞬間、私は恥ずかしくなる。


「ひゃっ!ぇ、冷、たい..?」


衝撃で手を離そうとするも、彼がそれを素早く戻して問う。


「..鼓動、聴こえる?」


そうだ、冷たいという以前に明らかな違和感がある。
人間には必ず打つものがない、即ち先程触れてから1度も脈を感じないのだ。


「あなた...どういう事、なの?」


心底不思議がる私に告げた。




「ボクは、ロボットなんだ」

「ぇ............?」



「通称ソングロボ。苦しんでいる患者に歌で幸せを与える。歌は病を多少たりとも癒す効果があるらしい。だからこの病院の研究室で博士の手によって生を受けた。それが君が以前に見た場所だよ。」


信じられない。
彼の言葉を疑ってしまう。
何故そんな悲しい事実をさも当然の事の様に淡々と話すのか。
ソングロボ??聞いたことがない単語に頭を悩ませる。
現実にそんな事が有り得るのだろうか。
しかし現実に彼に人の息を感じず、綺麗な瞳からは嘘など到底見えないのだ。


「ボクは、歌うためだけに生まれたんだよ。」


歌うため、"だけ"...?
その言葉に引っかかる。


「...患者のために歌っているなんて素敵じゃないですか。」
「...?」
「貴方の歌声は本当に綺麗だった。..私も何だか気持ちが安らぎましたよ」
「そう..。それはどうも。」

「あなたの事、、、そんな事実を突然言われて何が何だか分からない。実際今だって混乱してる。..だけど、貴方にはきっと他に生まれてきた意味があるはずだよ!私が一緒に見つけてあげる..!!」
「へぇ..楽しみにしているよ」


彼は今きっと生きている意味を感じられないんだ。
基本、無表情で時たま悲しい目をする。
けれど、本当に冷たい人間ならあんな歌は歌えないはずだと思った。
彼の存在は私の中の何かを激しく掻き立てる。


「ボクの秘密を知っている人間はこの世で極わずか。病院の院長、博士、及び研究員だけだから。もし漏らすような事があればそれなりの対処を受けることになるかもしれない。」
「う、うん...守ります」


どの様な処罰を受けることになるのか想像しただけでゾッとする。
ある種、伝えたところでむやみに信じてくれる人はいないかもしれないけれど。
そんな重要な秘密を彼自身が教えてくれたのはすごく嬉しかった。


「あ、自己紹介がまだだったね。私は七海 春歌、貴方は?」
「ボクは藍。美風藍。」

アイ..。




「「これからよろしくね」」






secret

(なんか、年下っぽいけど何歳なんだろう)
(藍くんは何歳なの?)
(歳?...一応18才だよ。)
(18?!てか一応って! ...私、軽く犯罪かな...)



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