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□告白
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あれから無事に家へ帰ってきた私は、
お母さんやお父さん、妹、家族全員に怒られる事になった。
しかし それを受け止める元気など残っておらず、
私はすぐに深い眠りに落ちていった。





朝がきて 嘘だと受け入れられなかった現状も病院の書類を見返したことで現実だと思い知らされ、重い気持ちで階段を降りる。
リビングでは家族が おはよう と声をかけてくるいつもの日常。
だけど、私にとっては今日は昨日までの普通の日常などでは無かった。
神様は私から当たり前の日々を奪っていったのだから。



「ほら、ご飯食べなきゃ冷めちゃうわよ」


お母さんが私の目の前にお味噌汁を置く。
あれ、今日って何曜日だっけ。


「何ゆっくりしてるの?早くしないと遅れるわよ?」


え、今日って平日だったんだ。
わたし呆けてるな。


「きゃ!お姉ちゃん大丈夫?!」
「え」


妹の祥(さち)が何かあたふたしているので視線の先を見てみると、
お母さんが置いてくれたお味噌汁が溢れてしまっていた。


「熱っ ‼‼」
「もう!何してるの」


祥は私の膝に掛かった味噌汁を布巾で拭ってくれた。


「あ、ありがとう祥。」


今日は何だかおかしな事続きだ。
頭もうまく回らないしボーッとする感じがする。
気のせいかな。


「あら?もういいの?!」
「うん..食欲無くて。」


食事も喉が通らず、ほぼ手付かずのままのご飯が机に目立った。
まぁ、こんな気持ちなんだから食べたくもないよね。
きっと気分的なものだ、と思った。


(あ、仕事だった。行かなきゃ。)


刻一刻と迫る出勤時間を目にし、椅子を立とうとした。
その時だった。


「...っ!?」


何故かバランスが取れず 壁に膝をつく形で転んでしまった。
力が、入らない。


「春歌!!」


お母さんの叫び声が耳の遠くで聞こえた。
私はそれに応えようとするも声までもが出ず。
ただただ意識が遠のくだけだった。





気がつくと視界が歪んでいる。

お父さん、お母さん、祥。
本当の事を伝えられなくてごめんね。
私の病状の事を話したら家族が哀しむのは目に見えていた。
大好きだからこそ伝えたくなかったの。

でも目覚めたら、伝えなきゃだね..。


『...ねぇ』


誰かが私の肩を叩く。
振り返り顔を見上げてみると、


『(貴方は....)』


この間 導かれるように入っていった古い教会の館で会った少年だった。
彼はこちらを見て表情は変えずに言った。


『おいで。連れて行ってあげる..』


そう言うと、私の手を握り上へ上へと上がって行った。
先から輝く光にぐんぐんと近づいてきて遂には私達は大きな光に飲まれた。


『大丈夫』






(夢....?)

眼を覚ますとそこは真っ白な天上。
すかさず見知った顔が3つ私を覗き込んだ。


「春歌...っ!!よかった!!」


(お父さん、お母さん、祥..)


起き上がろうとするもまだ体に力が入らず断念する。


「..ここ、どこ?」


先程からの部屋の周囲の殺風景に疑問を持ち始めた私は尋ねてみる。


「病院よ」


嫌な予感がした・・・。


「七海さん、目を覚ましましたか」


その予感は的中する事になる。
部屋に入ってきたのは余命宣告を受けた主治医。
お母さんは私に向き直り、急に真面目な顔になった。


「体のことは聞いたわ..。」
「....っ‼」


思考が一旦停止したかのように何も考えられなくなる。
ただただ知られてしまった という事実。


「七海さん。あれからご家族にお話されてなかったようですので私からお伝えしました。」
「........。」

「今回 倒れたのは恐らく、ストレスからくる精神的疲労が原因でしょう。まだ癌の方は深刻化していないのでとりあえず今はご安心なさって下さい。」


(そうだったんだ...)


「ご家族には病状の詳細もお話ししましたので。後は皆さんでゆっくり話し合いをなさって下さい。」


失礼します と、主治医の先生は部屋を出た。
部屋には静寂が訪れる。
一体何を話せばいいのか分からない。

顔が強張る私に気を遣ってか、
お父さんと祥が肩をバシバシ叩いてくる。


「大丈夫だ、図太い性格のお前が病に犯されてしまうはずがないだろう」
「そうだよそうだよ〜」
「痛いよ !? でも..、そうだよね ‼」


なんて笑っていたら。
お母さんはいきなり私を強く抱きしめた。


「...っ !気づいてあげられなくてごめんね..っ!お母さん、春歌の事サポートするから!頑張ろうね...っ‼‼‼大丈夫だからね‼」

(お母さん...)


きっとお母さん泣いてるんだ。
でも私に負担をかけないようにしてくれている。
お母さんだけじゃない、家族みんなが私の悲しみを少しでも減らそうと必死に。

...頑張ろう。
自分の為、何よりこんなに支えてくれる家族の為にも。

そう決意して家族と抱き合い、泣きじゃくったのだった。







confession




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