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□出逢い
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力なく帰路に付く。

うまく動かせない足。
行く当ても無く彷徨った。

ただただ 家に帰りたくなかった。
家族にどう話せばいいのか。

辺りは真っ暗になり、外灯が落とす光だけが並ぶ道をひたすら歩いた。
歩いても歩いても景色は変わらず、気付いときには何処かも分からない随分遠い場所に来ていたみたいだ。
明らかに私の地元を外れている。


(何処だろう、ここ)


ふと見渡すと一角に外灯で照らされている建物を見つけた。
吸い込まれるようにふらふらと建物へ歩いていく。
洋風な外観は年季が入っており、古びたドアノブに手を掛けるとキィ と音が鳴った。


(わぁ...)


館内へ入るとステンドグラスが一面に貼られた幻想的な世界が広がっていた。
月夜が降り注ぐ美しい光に神性を感じる。
どうやら此処は昔使われていた教会らしい。

祭壇の前まで歩き膝をついた。
両手を組み目を瞑る。

私は祈った。
今 神に頼む事しか出来無い。



「神様..!お願いだから、私を助けて下さい..っ!!」


必死に願った。
涙が後から後から溢れてきて止まらなくて。
私は泣き崩れた。
どうか、助かりたい。私には夢がある。
まだ生きなきゃ。




.... 生きたい



「生きたいっ‼‼」


そう強く願った瞬間だった。



「.. ど う し て ?」



(−−− え?)


「だ、誰?!」

人がいる。
こんな所に人がいるなんて思っても居なくて頭が真っ白になる。
そもそも人の気配なんて全くしなかったのに。


「キミはどうして生きたいと願うの?」

それは少年だった。
透き通った高い声をして マリン色の綺麗な目、そして白い肌。
その整った顔立ちに思わず見惚れてしまう。


「..き、消えるのが怖いの」


答えた声は震えてしまった。
出会ったばかりの人に何を言っているんだろう。
後悔していると 少年はこちらへ近づいてきた。


「ボクには分からないんだ、生きているつまり存在する意味が。」


少年はおかしな事を言う。
同じ人間であるはずだろうに、まるで人間では無いような言い方だ。


「ボクは存在している事に執着がないから別に消えたところで何も変わらないと思っている。」


何故そんな事を言うんだろう。
そう言う少年の目にはさっきまでの綺麗な藍色が無いように見える。

この少年も何か悩みを抱えているのだろうか?
それとも命が惜しく無い?
なんだか悲しくなって私は訊ねた。


「貴方は生きたくないの?」


少年は少し悩んでから答える。


「解らない。解らないんだ。」


少年はドアに手を掛けた。


「...また逢えるといいね」


そう言って軽く微笑んで見せると少年は闇へと消えていった。


「ま、待って..!」


何だっただろう。
それにしてもとても美しい少年だった。
まるで人間離れしたような顔立ち。
あんなに綺麗な人間がこの世にいることに感心しつつ、私は携帯に着信がきていることに気付いた。


「131件...」


電話主はお母さんだった。
そこで私は我に帰り 時間を確認する。
時刻は10:59だった。

(家に帰らなきゃ。絶対お母さん心配してるだろうなぁ。)

友達と出かけていても、どんなに帰りが遅くてもここまでの時間になれば必ず連絡だけはしていた。
私は立ち上がり、お母さんには今から帰ります とメールを送り外へ出て歩くことにした。
すっかり夜になってしまい外は静まり返ってしまっている。

弱い風で草木が揺れ それか少し不気味で、
だけど来た道をひたすら歩いた。





家に着いた頃には既に日付が変わっていた。





an encounter

あの少年とまた逢えたらいいな






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