Voice story

□これからはずっと
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今日はとあるアニメの打ち上げ。
あまりお酒は自主的に飲まないし得意ではないのだが。
私が密かに好意を向けている、キャストの1人である吉野裕行さんも来られるという事で参加しようと思ったのだ。


指定のお店に全員が揃った所で、主役の浪川大輔さんが乾杯音頭を任される。


「えー、皆様お飲み物はお持ちですね?本当にお疲れ様でした!ではでは〜カンパーイ!!」
「「「「「カンパーイ!」」」」」


その場の全員が次々にグラスを重ね合わせる。
私も順に重ねていき、最後に吉野さんとグラスを合わせた。
Wお疲れ!!Wと彼は笑う。
その笑顔が眩しくて私はドキドキした。


「..あれ?風香ちゃんお酒飲まないの?」


隣の席に座っている羽多野さんが、私が手にしているノンアルコールカクテルを見て尋ねる。


「あ、はい。実はお酒あまり得意ではなくて...」
「そうなの?!なんだ〜仲間がいて嬉しいな」
「羽多野さんも苦手ですもんね」


羽多野さんと楽しくお話させて貰いながらも吉野さんが気になってしまう。
見ると、今は浪川さんと楽しそうに笑っている。


(..あれ?今、目が合って?)


ビックリして目を逸らしてしまった。
嫌な風に思われてしまっただろうか。
お話したいな・・・、そう思っても私には彼らの輪に入っていく勇気もないのだ。
そうやって少し凹んでいた時だった。


「なにぃ〜、お前ら楽しそうじゃん」
「っ」
「あ、よっちんさん。風香ちゃんがお酒苦手って話をしてたんですよ...ってよっちんさんもう酔ってます?!」


「酔って、ねーし..」


羽多野さんの言葉で気付いた。
吉野さんの頬は赤らみ、重そうな眼は今にも閉じてしまいそうだ。


「吉野さん?」
「すー・・・」


どうした事だろう。
吉野さんは私の肩に頭を倒して眠ってしまったのだ。


「えっちょっ、羽多野さんどうしたら?!」
「あ〜もうよっちんさん・・・。」


W風香ちゃんドンマイWと全員が口々に言う。


いつまでこうしていただろうか。
気付けばもう打ち上げもお開きにしようという話になって帰っていく人も見える。


「あの、吉野さん‥?起きませんか?もうお開きみたいですよ」


そう言って体を揺すってみる。


「ん〜・・・」
「あっ良かった!起きたんですね!」
「よっちんパイセン大丈夫すか?俺タクシー呼びますけど?」
「悪ぃー..頼む..」


私一人に任せまいと、浪川さんが電話でタクシーを呼んでくれる。
今にも壊れてしまいそうなこの胸のドキドキから開放される、そう思ったのだけれど。


「なあ〜俺ん家着くまで乗ってきて?」
「え?!」
「ダメ‥?」
「いえ..、分かりました!」


予想外過ぎる展開に戸惑うも、そんな上目遣いで好きな人にお願いされたら断れるわけがなかった。


「あ、よっちんパイセン!タクシー来ましたよ!」
「うい〜‥」


浪川さんが吉野さんを支えて車内へ乗り込ませる。
そんな中、眼を瞑る吉野さんの手は私の服の裾を小さく、しっかりと掴んでいた。







「到着しましたよ」


タクシーがゆっくりと止まり、運転手さんが声をかける。


「あ、はい!...吉野さん着きましたけど」
「お〜 」
「じゃあ、おやすみなさ...」


会計を済ませ ゆらゆらと車を降りていく彼に一声かけた時だった。


「っ?!」
「あ、運転手さん出してください〜」


いきなりに手を引かれ、私は車外へ。
そのままタクシーは暗闇へと消えていってしまった。


「ええ?!」
「あはは行っちまったな?」


笑い事では無いはずなのに。
何故こんな事をするのか全く分からなかった。
それなのに私を引く手はマンションのエントランスを通り過ぎても、エレベーターへ乗っていても離されることはない。


「入って」


いつでも手を振り払って帰ることが出来るのに。
繋がれた手があまりに熱くて、私にはそれが出来なかった。


「ふあ〜」
「あの、もう遅いですし私はこれで....」


いくら吉野さんが酔われているからと言って、こんな夜遅くまで部屋に居るわけにはいかない
そう思った私が踵を翻した時だった。


「...ハァ?何言ってんの。」
「っ」


腕を掴まれ、勢いよくベッドに押し倒される。


「んんっ!」
「ちゅ...は..」


絶え間なく降り注ぐキスの嵐。
私は驚きと衝撃で全身の力が抜けてしまう。
抵抗も出来なかった。
違う、そんなのは嘘。こんな形とは言え本当は望んでいて抵抗したくなかったのだ。
こんな甘い展開に身を委ねてしまう自分の醜さにも罪悪感を感じながら、私は吉野さんの自宅で一夜を過ごした。









翌朝。
目を覚ますと隣に心配そうに見つめる吉野さんの顔があった。


「体、..大丈夫か?」


腰に鈍い痛みが走る。
何とか重たい腰を起こして私は起き上がった。


「だ、大丈夫です」
「ほんとかよ?しんどいならまだ寝てていいからな」


そう言って布団に入る様に促した後、


「あの、さ・・・夕べのことなんだけど・・・ー」


バツの悪そうに話を切り出した。


「よ、酔った勢いだったんですよね?私は大丈夫です!振り払えなかった私も悪いですし....」


昨夜はあんなに酔われていたんだ、
きっと覚えていないのも無理はないと思った。
吉野さんがあんな事をノリでする人だとは思わなかったけど、私もそれを拒絶することが出来なかった。
私も私だ・・・。
恥ずかしさから私は完全にお酒のせいにしてこの話をかわそうとしたのに。


「...ちゃんと覚えてる」
「え..?」


思いもよらない一言だった。


「酔った事を良いことにした。流石の俺でもこんなこと勢いだけでやらねーよ。今までもした事ない。..お前への気持ちがあったから。」
「え・・・?」


何が起こっているんだろう。


「その点では都合の良い勢いだったのかもしんない。」
「え...」


嬉しくて、吃驚して、言葉が出てこない。
こんな夢のような出来事が現実に起きるものなのか。


「吉野、さん...私、吉野さんが好きです...!」


想いが溢れる。
涙が後から後から零れて頬を伝う。


「ずっと...好き、なんです」


吉野さんは目を見開いたあと、私を抱きしめた。


「悪かった。こんなんならちゃんと普通に気持ち伝えりゃ良かったよな。..汚い手で逆にかっこ悪ぃよ、俺。」


頭をゆっくりと撫でられる。
その手のひらが温かくてとても優しくて。


「俺も風香がずっと大好きだ。これからはもっと大切にするから。・・・俺と付き合ってくれますか?」
「はい...っ!」












これからはずっと

(順番が逆になっちまったよな・・・)
(そんな吉野さんも大好きです)
(・・・。ありがとな)












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