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□感覚
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「いらっしゃいませ〜」


進行を止める薬のおかげで体の調子がいい私。
それもあって今日から以前の仕事に復帰することが出来た。


「春歌ちゃん、無理だけはしないでね?久しぶりだからって張り切っちゃダメだからねっ」
「店長さん..ありがとうございます!」


私が働く雑貨屋の店長である女性は私の仕事復帰の希望を快く受け入れてくれた。
病の事を知ってもこうして雇い続け、体まで気遣ってくれる。
我ながら本当に良い職場につけたなと感謝の気持ちで胸がいっぱいだ。


(やっぱり嬉しいもんだな..)


以前はあまり感じなかったが、働ける喜びは大きかった。






「ありがとうございました〜!」


レジを済ませお客さんを送り出す。


「春歌ちゃん、今日はもう上がっていいわよ」
「え、でも...」
「初日から頑張りすぎてもいけないわ..。また次のシフトで、ね?」
「..はい、ありがとうございます。じゃあお先失礼します!」


"お疲れ様"とにこにこと笑ってレジを代わってくれた店長に胸が温かくなる。
次がある、また働きに来れる事に幸せを感じながら、
ロッカーに移動すると簡単に着替えを済ませて外に出た。

帰途につき歩きながら考えるのはあの少年の事。
"ボクはロボットなんだ"
この言葉がループしてしまう。
信じられないという気持ちが正直なところではある。
だけど、それが彼なら受け止めたい、沢山関わりたいと思う自分が居るのも事実で。
これが未知への興味本位からなのか、彼の事を気に入ったからなのかは分からない。



(わぁ..綺麗)


丁度夕日が出てきて真っ赤に辺りを染めている。


写真を撮ろうとスマホを取り出しカメラアプリを起動させて目の前に広がる茜空を撮る。
病気を発症してから、こういう自然や今まで何気ないと思っていたものを素直に美しいと感じるようになった。


(これ、あの子に送ろうかな)


















藍side



「ふぅ」


病室への訪問を終え、研究室に戻り椅子に腰掛ける。
PCに目をやるとデスクトップに新着メールの通知が1件あった。


(ん...?彼女からだ)


クリックすると、
"綺麗だったので藍くんにも見てもらいたくてメールします"
と書かれた文章と1枚の添付ファイルが。
それをクリックする。


(これは、ユウヒ?)


真っ赤に染まる空。
ボクにはこれが美しいものなのかどうかが分からない。
人間が持つ感覚や感情がボクには無いからだ。

何故なのだろうか。
真実を話したにも関わらず、ヒトが綺麗だと思ったものを見せるなんて。
ボクには共感を得ることなど出来はしないのに。


「不思議な人だ」



思わず呟いた。










感覚
それは全く違うもの




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