Voice story

□Love change!
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「森久保さん入りまーす」



とあるスタジオにて。
今日は俺がレギュラーで出演しているアニメの収録だ。
俺はいち早く現場に到着し台本の確認をしていた。

俺は森久保祥太郎。
恥ずかしいが一応、大人気声優だ。

仕事はありがたい事にたくさん入ってくるし毎日それなりに忙しい生活を送っている。

そんな俺、森久保祥太郎にも好きな人くらいは存在するわけで・・。

だが、まぁ片思いってやつだ。
つまり相手にはこの気持ちはまだ伝えちゃいない。

俺の好きな相手は誰かって?
それは ......、


「森久保さん、今日はよろしくお願いしますね!」
「..ッ!あっあぁ、よろしくな」


俺に明るく笑顔で挨拶をして行った一人の女性。

名前は水野 風香。
そう、この子こそが今俺が想いを寄せている女性である。
この子も大人気声優で今年で声優歴10年のそこそこのベテラン。俺の後輩で年は29歳。
俺と10歳以上も年が違うのだ。だがそんな年齢差なんて気にならない程に彼女は可愛い。
だからいろんな声優陣からモテているのだが、本人はそれに全く気付いていない。


俺が 彼女と出会ったのは今から9年前。
初めて一緒に仕事をした。
その頃の水野はまだ業界に入りたてのド新人で今では考えられないくらいミスを連発していた。
落ち込んでいる水野を俺は見ていられなくなって 声をかけてひとつひとつ教えてやっていたっけ。
『いつもありがとうございます』 なんて無邪気に笑って。

その時は新人である彼女に先輩として仕事を教えているだけだったし、なんてドジなんだろうって呆れていたくらいだった。
だが、それから何年も現場が重なっていく内に水野に会うのが楽しみになっていた。
作品が被らないかな なんて期待して。
俺らしくない事ばかり考えるようになった。
だが 俺が教えてやらなくても自分で仕事をこなせる様になっていった彼女に少し寂しさを感じていた。
段々 気持ちは募っていったんだ。


台本の確認を一通り終えると収録まで時間があったので水野に話に行く。


「水野。今日も気楽にやれよ」

「はい!ありがとうございます!」


そう言って笑った。
無邪気な笑顔はあの頃のまま。
依然として全く変わっていない事に安堵する。


「おはようございまーす!」


ブースに出演者が入ってくる。


「森久保さん、今日もお願いしまっす!」
「お、おう」


こいつの名前は宮野真守。
いつみても明るくて、現場の雰囲気を和ませたりキャスト陣を盛り上げたり。
とにかくいい奴ではある。のだが。


「風香ちゃんも!よろしくね〜!」
「うんっ!!こちらこそ!」


とても嬉しそうに水野は答えた。
そうだ。彼女はマモちゃんに気がある。
彼と接している時には見せない顔を彼だけにするんだ。
それは誰が見ても分かる変化だった。
それを俺はずっと見てきたんだ。
水野はマモちゃんに気を寄せてから随分と変わった。
以前辛そうにしていた仕事も楽しそうにしだしたし、何よりも より一層 可愛くなったようにも思う。
それに、マモちゃんと出演が被る日にはお洒落をしているのが分かる。

彼は彼女とも年が近いし、俺なんかより親近感もあるだろう。
そして 釣り合っている。
それが俺にとってすごく切なくて複雑だった。


俺は マモちゃんと話している水野の姿を隣でぼんやりと見つめていた。







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