ネタのタネ

□ネタ集・時乙女(白銀の戦乙女編)
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激しい頭痛と共に意識を失った安寿は、夢現の中、断片的に蘇る記憶を眺めていた。


『(私は……あの者達を、知っている?一体、どこで?いつ?)』


どこかの屋敷の縁側で小さい子供達が庭を駆けている様子を、隣に座っている男に茶を注がれて飲んでいる穏やかな光景、やって来た2人の兄弟と庭を駆けている子供達の兄に懇願されている光景。


――――――そして、その金の目に涙を溜める浅黒い肌の男に腕の中で泣いて息を引き取った血に濡れた少女は己と瓜二つだった。



甘く穏やかな光景の最後は、とても胸が詰まりそうな程に苦しくて悲しかった。
置いて逝かなければならない事に対しての申し訳のなさと、悲しげな表情にさせてしまい、己も悲しさで、いつの間にか頬を濡らしていた事に気付いた。


『(これは…涙、か?悲しい、か…。………………ああ、そうか。だから私は悲しいのか。)』


その涙の答えを知った安寿は、やがて白く明けていく空間と共に意識を浮上していったのだった。










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目を開けた安寿が目にしたのは、木の目が気になる天井と心配そうに顔を覗き込んでいる母だった。


『かあ…様?』

『安寿、大丈夫?まだ頭は痛む?』

心配そうに尋ねる麗に安寿は恐る恐る首を振った。


『いえ、もう痛みません…。ご心配おかけしました。』

『そう、なら良いの。けど、顔はちゃんと拭いてきなよ。』

『え?』


蒸しタオルを渡され、麗に言われた事にきょとんとなった。気付いていない様子に麗は指さして言った。


『寝ている時、あんた魘されていたよ。涙の跡があるから拭いてから来るのよ。』

『修行ですか?』


気を失っていたのだ。鍛錬を再開せねばと思っていると、麗は呆れた様に首を振った。


『違う違う。今日はもう無理でしょ。まあ、勉強部屋が広いからそこで待ってもらっているけど。付喪神達に会ってきな。そんな顔じゃあ、あいつらも心配するでしょうし。』




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顔を拭いて、寝癖の付いた紙を整えてから勉強部屋に降りると、降りてきた彼女を見つけた男達が寄って来た。


「詠ちゃ…安寿ちゃん!」

「安寿ちゃん、その…………身体は大丈夫?」

『ああ、大事ない。心配をかけて済まないな、お前達。』


フッと笑みを零した様子はとても懐かしい物であり、刀剣男士達は目を見開かせた。
それは、気絶する前の何も知らない安寿ではなかった。


「もしかして、思い出されたのですか?」

『ああ、完全ではないがな。この場におらぬ者がいるだろう。そいつらの事までは思い出せん。……済まぬな、お前達。不甲斐ない母であった。』


約束していたのに、最悪の形で破ってしまった。
あの後の彼らがどうなったのかは分からない。だが、この様子から見て大分苦労をかけたのだと理解した。


「本当だよ……詠ちゃんが死んだ後、こんのすけが教えてくれたんだ。俺達の命と引き換えに、詠ちゃんが命を差し出した事…。目の前が真っ赤になったよ……。」
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