ひとつ

□ピアス
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その日、朝清掃以来、彼奴は俺の元へくる事は無かった。



「…少しは勉強に関心をもったか?」



そんな筈…ないか。



執拗に俺にまとわりつく後輩。
名は…工藤匠と言ったか。


目に優しくない金髪、痛々しい程につけたピアス、カラコン……はしていない。


本人によると、カラコンは怖くてつけられないらしい。


ピアスよりはマシなのではないか…?と何度思った事か。


それより、何故俺にまとわりつくのかがどう考えても分からなかった。

俺は別にゲイではない。
彼奴も女の子との経験が有るからゲイという訳では無いようなのだが。


同性愛に偏見は持っていないが、
矛先が自分に向けばそれは別問題だ。


それは彼奴も同じなのだろうか。
男同士、という事で思考回路がおかしくなってまとわりつくのだろうか。


普通堂々とアピール出来るものなのか?

少しは恥じらいというものが無いのか?




気が付けば彼奴の事で頭がいっぱいになり、その日の授業はまともに受ける事が出来なかった。










放課後、俺は気になる小説があったので、書店へと立ち寄った。






「えっと……恋愛、恋愛…。」



俺は恋愛について一から学ぶため、CMでやっていた、恋愛の極意、という小説を探していた。





そして、見つけた本を手に取り
他に欲しい本が無いかと、本棚の周りをぶらぶらとしていた時





ふと視界に入った彼奴。



…何故彼奴が辞書コーナーに?


漫画ならまだ分かる、だが何故辞書コーナー?


…そして脇に抱える敬語の掟。

それ、俺も持っているぞ。
気が合うのか?それはないな。


…速攻で答えが出た事、謝ろう。





彼奴、辞書オタクなのか?
英和辞書やドイツ語辞書を部屋中に積み上げアハハウフフとでも笑っているのか?




…熱でもあるのか?俺は


彼奴が辞書などで喜ぶ訳がなかろう。



あまりにも真剣に辞書コーナーをうろついているので、俺はそっとその場を後にした。


相手が不良であれ、勉学の邪魔をするのは良くない。



俺はさっと会計を済まし、書店を去った。









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