ひとつ

□ピアス
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べちょっ…



「ぎゃっ!?何すんのセンパイ!!」



「や…すまん。つい…」


「つい、で人の顔に雑巾なすりつけますか!?」




雑巾をなすりつけられた俺、金髪一年、工藤匠(くどうたくみ)。

そしてなすりつけた黒髪二年、本堂大樹(ほんどうたいき)、俺の愛しの人。



どうみても真反対な俺たちがこうして同じ場所で掃除をしているのには訳があった。



「せんぱーい、付き合ってくださいよー。」


「くだらん事言ってないで掃除しろ、掃除。あ、でっかいゴミだ。」



そう言って俺の頭をわしづかみにして、掃除ロッカーへとめりこませたセンパイ。そのセンパイの表情はまさしく鬼だったとか。



「…本堂センパイすげー…。
あの工藤匠を黙らせるなんて…」



「…てめぇら…何センパイ見てんだ殺すぞこの野郎!!」



…普通は何こっち見てんだこの野郎…じゃないのか?


などとセンパイが思っていたことは知らない。なんせセンパイは面倒事が大嫌いだから。



「ってことでセンパイ、付き合ってくださいよー!」



「告白するならもっとまともな告白をしてみろ。」



まともな告白、そう言われても俺は告白なんてしたこと無いし、直接言われたことも無いのだからまともな告白なんてもの、知るはずもなかった。



…手紙ではされたことはある。
だが、その最初の一文が

"直接話すのは何だか怖いので"

だったのが俺の心をえぐったのを女子たちは知らない。



と、とりあえず敬語使ってみればいいのか?



そう思い、俺は咄嗟にぎこちない敬語で、



「た、たい…本堂先輩。
俺と…?私と正式に恋人のような関係になっていただけないでございましょうか…?」



「却下だ。
まともな敬語を話せるように勉強するんだな。そうしたら考えておく。俺は国語が一番得意な教科だ。容赦はしないぞ。」




その言葉に、俺の表情はパアッと明るくなった。

まだ希望はあるのだ。
これから国語の授業"だけ"出て、国語辞典と敬語の勉強の本を買う!

そんで先輩に告白する!




「はいっ…!
じゃあセンパイ、一時限目国語なので行ってきます!」




「こら、掃除をサボるな。」




チッ…バレたか。






俺はウキウキで掃除に励んだ。







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