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□掌の温癒(ぬくもり) 中編
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残された凍矢は相変わらずその目には何も映していなかった。

「凍矢・・・と言ったな。お前の世話役に当たる画魔だ。
こいつは陣。
お前はこれからは私達と生活を共にすることになる。
わからないことがあれば私や陣に聞いてくれ」

凍矢は膝の上で手を握り締め、微かに顔を伏せた。
画魔はそれ以上何も言わなかった。
彼自身も孤児だったので凍矢の心理状態は痛いほどわかっていたのだ。

画魔は幼い者同士の方が打ち解けられるかもしれない・・・と淡い期待を抱いていたが、陣と凍矢はまったくと言っても良いほど正反対の性格で。
初めての弟弟子に、人懐こく笑顔を向けて差し出した陣の手を、凍矢は触るなと言わんばかりに払い退けたのだった。
当然陣は良い気などする筈もない。
その後画魔が怒る陣を羽交い締めにして漸く事は収まったが、初対面の互いの印象は最悪そのものだった。


犬猿の仲・・・とはよく言ったものだ。
それ以来顔を合わせる毎に火花を散らす幼子二人に、暫くは様子を見ていた画魔も流石に堪忍袋の緒が切れた。
二人に獄錠の粧を施し、丸一日床に転がしておいたのだ。

「自分達の力で術が解けたら喧嘩でも何でもすればいい・・・。
互いが反省するまで稽古は付けないからな。
そのままじゃ、稽古どころか飯も食えないだろうけど・・・」
と言い残して。

無論二人の妖力で画魔の術が破れるほど甘いものではないのだけれど。


捨て置かれた二人はといえば、互いに顔を背けて暫くイモムシのようにクネクネともがいていたが、画魔の妖術は微塵もブレることなく二人を戒めたまま。

「くっそ〜・・・画魔の奴うぅぅ・・・!!」

陣は諦め悪く、尚も術を解こうと躍起になって妖気を集めるが錠は全く揺らがない。

「・・・・・・」

一方凍矢は無理だと判断したのか、動きを止めて部屋の外の様子を探る。

先ほど午後の稽古が終わり、宿舎が賑やかになったから間もなく夕飯時か・・・。
朝に術を掛けられてから、ずっと飲まず食わずで床に放置。
稽古ができないというのは里の忍においては死活問題だ。
何よりも育ち盛りの子ども達には空腹は耐え難い苦行である。
・・・腹が減っては何とやら。
漂ってくる夕飯の良い香りに、喧しく鳴き出した腹の虫。

認めたくはないけれど。
あまりに癪に触るけれど。

二人は渋々ながら一時休戦したのだった。


(・・・絶対こいつには負けない・・・)
と互いに心に誓いながら。

 
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