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□掌の温癒(ぬくもり) 中編
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小さな背中が道にひとつの影を落とす。
凍矢が長との稽古を終えた頃には、夕闇が迫っていた。
連日の想像を絶する荒稽古に途中からは時間の間隔さえなかった。

「うっ・・・」

両手の痛みにくぐもった声が漏れた。
凍矢の両腕は、自分自身の制御しきれなかった妖気に当てられ凍傷を負っていたのである。

宿舎に戻って早く腕を温めないと・・・


凍矢は長の屋敷を後にして、フラフラと宿舎に向けて歩を進める。
長時間に渡って妖気を放出し続けたせいで腕だけではなく、身体の震えが止まらなかった。
そんな凍矢には里の端にある宿舎までの道のりはひどく遠く感じられた。



ドンッ!


足元の覚束ない凍矢は途中で向かいから歩いて来た里の子ども達と肩がぶつかった。
相手との間合いは十分に取っていたはず・・・。
故意にぶつかられたその反動で凍矢はよろけ、両腕を庇ったせいで受身も取れないまま尻もちをついた。

「・・・っぅ!」

倒れた時の振動に両腕が軋んだのがわかった。


「ん?コイツ確か・・・」

子どもの一人がわざとらしく凍矢の顔を覗き込む。

「化粧師の画魔のところに入った新顔だぜ」

それを聞いて、ひとまわり身体の大きな少年が凍矢に冷ややかな言葉を浴びせる。


「ぶつかっておいて何も言えないのか?」


それは明らかに自分へと向けられた悪意。



(確か・・・火群(ほむら)・・・と呼ばれていたな)

凍矢はぼんやりと霞む意識の中で記憶を辿る。
里に来てまだ間もない頃、長と共にいた時に感じた殺気にも憎悪にも似た視線。
長は気にするほどの相手ではないと言っていたけれど・・・。


凍矢は押し黙って静かに立ち上がる。
早く腕を治療しないと明日からの稽古に支障が出てしまう。
一言上辺だけでも謝れば、この場を離れられるのかもしれない。
しかし、自分でも賢い選択とは思えなかったが、自分に非のないことで謝る気になど到底なれなかったのである。
 
 
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