最終話の後
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気がつくとそこは真っ暗な世界だった
周りを見渡しても何もない、ただひたすらに真っ暗な世界
その景色があまりにも不自然すぎて、俺は瞬時に『ここは夢の中か』と認識する
ふ、と後ろを振り返ると、そこには馴染みのある人物がいた
「...美咲」
暗闇しかない世界にポツリと立つ美咲
俯き気味の顔、そして目には生気がなく、本当に美咲なのかと疑問に思うほど
「猿比古」
美咲が口を開く
「猿比古...」
もう一度名前を呼ばれる
「美咲?お前こんな所で何してんだ」
どうせ夢だ、問うだけ無駄だろう
そうはわかっているものの、つい美咲に質問をしてしまった
「バー吠舞羅には帰らなくていいのか?もうこんなに真っ暗だぞ、お子ちゃまは早く帰って寝ろ」
あまりに静かに名前を呼ぶ美咲が変に気持ち悪くて、本物の美咲ならブチギレて殴りかかってくるような事を言ってみる
「大好きな大好きな尊さんも待ってるんじゃないか?」
「...何言ってんだ猿」
俯いていた美咲がゆるりと顔を上げ、泣き出しそうな声で言った
「尊さんは、死んだじゃねぇか」
…
……
………
…………
「ーーーっっっ!!」
目が覚めた
全身がジットリと汗ばんでいて、寝間着にしているシャツが身体に貼りついて気持ち悪い
「......はぁっ...」
気分の悪い夢を見た
シャワーでも浴びるか...
そう思い、ベッドから身体を起こすと同じタイミングで枕元に置いておいたタンマツが鳴り響いた
画面を見ると、登録のされていない番号
訝しみながら通話ボタンを押し
タンマツを耳に当てる
「はい、どちら様でしょうか」
「.........」
しばしの無言
悪戯電話か?そう思い、通話を切ろうとしたとき
消え入りそうな声がタンマツから聞こえた
『...猿?』
美咲だ
「美咲?どうしたんだ、お前からかけてくるなんて」
電話口の美咲の声は小さく、普段の威勢の良さを微塵も感じさせない
『なぁ、俺、どうしたらいいのかな...』
「どうしたら...って?」
『尊さんが死んで、憧れるものがなくなった、その瞬間に自分はなんのためにここにいるのか、とか、これから何をしたらいいんだ、とか、なんにもわからなくて...』
ボソボソと喋る美咲の声は、泣いてるようにも聞こえた
『なぁ猿、俺、どうしたらいいかな...』
再び問われる
泣き出しそう、あるいはもう泣いているだろう美咲の声は本当に小さく
自分の息すら潜めないと聞こえなくなるくらいだ
「...知るかよ」
『...猿......』
尊さんが死のうが、俺には関係ないと思っている
『......わかった、ごめんな、急に電話したりして』
はは、と乾いた笑い声が聞こえる
どうせ今お前は笑ってないんだろ、泣いてるんだろ
辛いよな、寂しいよな、悔しいよな、苦しいよな
信頼していた者がいきなり自分の前から消える痛みは、俺自身もよく知っている
だからこそ
「お前には...尊さんが居なくても、尊さんが残していった吠舞羅があるじゃねぇか」
『......』
「トップが消えたら、その胸にある誇りは無いも同然になるのか?吠舞羅は無くなったようなもんなのか?お前にとって吠舞羅の誇りはそんなもんなのか?」
『...そっ、そんな訳...!!』
「なら、いつもみたいにアホみたいに吼えてろ!胸張って吠舞羅のヤタガラス名乗ってろ!!美咲ぃ!!」
だからこそ、同じ痛みを受けてほしくない
俺が信頼していた美咲には
『........ははっ、名前で呼んでんじゃねーよ...クソザル...』
ブツッ ツー ツー
......これでいいんだ
…………
………
……
…
学園島内、尊さんが死んだ場所に来た
吠舞羅の連中も来たんだろう
どこかから千切ってきたらしい花や、安っぽい菓子が大量に置いてある
一本だけ高そうな酒が置いてあるのを見つけた、これはきっと草薙さんだろうな
「アンタの所為で、美咲が大変ですよ」
何もない地面に向かって言う
返事はもちろん返ってこないから、俺は一方的に喋り続けた
「なんで死んだりしたんすか」
「吠舞羅の連中、悲しんでますよ」
「アンタは最低の王だ」
「美咲が、悲しんでますよ」
返事はない
「...何やってんだか、俺は」
ふぅ、とため息を一つ吐き
手に持っていた花束と酒を吠舞羅の連中が置いていった花やら何やらの横に置く
空を見上げると、夕焼けで空が赤く色づいていた
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猿比古と美咲と尊さんのドロドロ話でした
尊さんが居なくなって自暴自棄な美咲ちゃん可愛い
なんだかんだで猿比古も寂しがってたら可愛い
とか思いながら妄想膨らまして書きました
吠舞羅連中は花とか買おうと思わないで河原とかで比較的綺麗な花とか千切って束にして持ってきたりしてそう
とりあえず猿美ちゃんぎゃわいい
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