Towards light

□終戦
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こころは深々と頭を下げてから、白ひげに背を向けた。

そして立ち上がったエースの側にテレポートをすると、自分と同じ背丈になるようにエースの腕を下へと引っ張った。

それにつられて、エースも身をかがめる。


『エース聞いて?あのね、』


こころがエースの耳元で、周りに聞こえないように話す。

エースはこころの話が進むにつれて、目を大きく見開いていった。

話しを聞き終えたエースがこころの顔を見ると、それに気付いたこころは、幸せそうにほほ笑んで、エースが口を開く前に姿を消した。





「死神だー!」

「捕えろー!!」


こころは追ってくる海兵をくい止めるために、少し後ろで戦闘を繰り広げている。

エースはルフィに促されて、共に湾岸を目指して走り始めた。



エ「ルフィ、こころを助けてくれてありがとな。」

ル「ん?あぁ、ジンベエにエースを慕ってたって聞いたんだ。それよりこころは…」

エ「そうだったのか。…こころなら大丈夫だ、意識があるうちは捕まらねぇよ。」


ジ「エースさん、ルフィ君、前を走れ!」

ル・エ「「ジンベエ!」」

ジ「お前さんたちは狙われとる。一人でも多く生き残ることがオヤジさんの願いじゃ!」



赤「本気で逃げられると思うちょるんか?めでたいのう。」

「サカズキ大将…」

赤「お前ら、ちょいとどいとれ。」


『逃げて!』

赤「遅い。」



「うわぁああああ!」という声と共に数人が倒れる。

仲間が犠牲になる悔しさと怒りと悲しさにこころは拳を握りしめ、エースは目を固く閉じた。

ルフィは走り続ける。



ジ「二人とも、ひたすら船を目指して走るんじゃ!」



赤「火拳のエースを解散して即退散とは、とんだ腰抜けの集まりじゃのう。白ひげ海賊団。」



「「「「何ぃ?!」」」」

「見え見えの挑発に乗るんじゃねぇ。立ち止まったらそれこそ奴の思うつぼだ。」



赤「まぁ船長が船長。それも仕方ねぇか。…白ひげは所詮、先の時代の敗北者じゃけぇ。」



赤犬の挑発的な言葉に、エースは走っていた足を止める。



ル「エース!」

エ「・・・・・敗北者?…取り消せよ、今の言葉!!」



『エース、何やって…』



海兵と交戦しながらも、こころが後方を振り返ると、エースが赤犬の方を向いている。



「おいよせエース!立ち止まるな!!」

「勝手に言わせときゃいいんだ!」



エ「あいつ、オヤジを馬鹿にしやがった。」

ル「エース!」

赤「取り消せだと?断じて取り消すつもりはない。そりゃそうじゃろうが。お前の父親ゴールド・ロジャーは偉大なる航路(グランドライン)を制し、さらに自らの死と引き換えに大海賊時代と言う新たな扉を開いた。
海軍のわしが言うのもなんじゃが、まさしく海賊王の名に恥じぬ男だった。
それに比べて、白ひげはどうじゃ?果たしてそのロジャーとまともに戦う気があったのかどうか、大方安全な場所で大所帯を持ち、お山の大将で満足してたんじゃありゃせんのか?
世間では白ひげの名で、今もいろんな島の平和を守っちょるとか言う馬鹿どももいるようじゃが、わしに言わせりゃたかが雑魚の海賊ども相手に睨みを聞かせたくらいで、英雄気取りとは、笑わせる。
ロジャーが生きている間もその後塵を拝し続け、死んでも名実ともに王になれずじまい、つまりは永遠にロジャーには勝てん。
永遠の敗北者、それが白ひげじゃ。どこに間違いがある。」



エースが炎をまとったまま、一歩を踏み出す。



赤「思えば悲しい男じゃのう。オヤジオヤジとごろつきどもに慕われて、家族まがいの茶番劇で海にのさばり、」

エ「やめろ。」

赤「何十年もの間海に君臨するも、王にはなれず、何も得ず、終いには口車に乗った息子と言う名の馬鹿に刺され、それを守るために死ぬ。
実に空虚な人生じゃありゃせんか?」



エースは歩みを止めない。



エ「やめろ。」



エースを止める声も届かない。



エ「オヤジは、俺たちに生き場所をくれたんだ!お前にオヤジの偉大さの何が分かる?!」

赤「人間は正しく生きなけりゃ生きる価値なし!お前等ごろつきの海賊なんざに生きる場所はいらん!」

エ「やめろー!!」

赤「白ひげは、敗北者として死ぬ!ゴミ山の大将にゃあ誂え向きじゃろうが!!」

エ「白ひげはこの時代をつくった大海賊だ!!俺を救ってくれた人を馬鹿にすんじゃねぇ!!!」

『エースやめて!!』

エ「この時代の名が、白ひげだァ!!!」



エースが拳を振り上げ、赤犬も拳を振り上げる。



赤「白ひげも、それを慕うお前らも、結局同じ敗北者じゃけぇ!」



爆発と爆風が起こり、エースが吹っ飛ばされる。



イ「エースが焼かれ…た?」



『誰が、敗北者なのよ!』



赤犬の拳を、こころが受け止めている。

あきらかに体型も手の大きさも違うはずなのに、互角かそれ以上だ。



赤「さすがやりよるのう死神。だがお前に用はない。」

『あなたにはなくても、私には用があるのよ!!』



赤犬は足にマグマを纏わせ、こころに向かって蹴り込むが、それを押さえたこころの蹴りでマグマが無効化する。

まだ起き上がれないエースに、ルフィは駆け寄ろうとして、地面に膝を突いてしまう。

ビブルカードが、宙を舞う…。



ジ「おいルフィ君、おまえさんもう限界じゃ!」

エ「…エースの、ビブルカード…」



赤犬の視線の先がこころからエースに移る。



赤「海賊王ゴールド・ロジャー、革命家ドラゴン、この二人の息子たちが義兄弟とは恐れ入ったわい。
それに併せてゴールド・ロジャーの弟の娘。
貴様等の血筋は既に大罪だ。誰を取り逃がそうが、貴様らだけは絶対に逃がさん!…よう見ちょれ。」



赤犬はエースに落としていた視線の先をルフィに向けた。

こころはその移り先を見逃さなかった。

エースもそれに気付く。

しかし赤犬は、ビブルカードに手を伸ばしているルフィに向かって、既にマグマの拳を振り上げていた。



エ「待て!」

『ルフィ!』



振り返り、ルフィの元へテレポートしようとした時、こころは自分の体が傾いていることに気付いた。


『…え?』


そのまま地面に倒れる。




嘘でしょ。

こんな時に。

知らないふりをしていたのに、体はもう限界だっていうの?!

まだ、熱なんかに負けていられないの。

ルフィが!!




『…エー、ス…?』




赤犬の背を通して、ルフィを守るように両手を広げて立っているエースの姿が見えた。

その体に、白ひげさんのようにマグマの拳が貫いていることも。




息が止まる。心臓が一度大きく音を立てた。

頭から、全身から、何かが蒸発していく。

声が、出ない…




赤「まだ息がありそうじゃのう、火拳のエース。」

『…?!』



赤犬がマグマを纏った拳を振り上げる。



ル「やめろ!やめろぉおおおお!!!」



振り下ろされた拳を、ジンベエが止めに入る。



ジ「これ以上は、手出しはさせぬ!」

赤「つまらん時間稼ぎはよせ、ジンベエ!お前は元七武海、わしの力は十分知っとろうが!」

ジ「この身を削って時間稼ぎになるなら結構!もとより命などくれてやるハラじゃい!」

赤「裏切り者への制裁も必要なようじゃのう。」



赤犬が今度はジンベエに向かって拳を振り上げる。



『やめて…もうやめて…』


声にならない声が、絞り出すように出た言葉が、その一言だった。




マ「ジンベエ、伏せろ!!」



マルコとビスタが赤犬に切りかかる。



赤「ああ゛!うっとおしいのう!…覇気使いか?」

マ「…なんて事に!」

ビ「悔やみきれん!一瞬の抜かり!」



赤「火拳はもう手遅れじゃとわからんのか?」

『・・・・・』

赤「見てみぃ。」



赤犬が視線を送った先を見ると、地面に膝を突いてルフィにもたれかかっているエースがいた。



『エース!!』

ル「エー、ス…?なー、おい、大丈夫か?なぁ?…エース、急いで手当てを・・・」

エ「ごめんなぁ…ルフィ。」

ル「…え?!」

エ「俺の為に、あんなに無茶させちまったってのに、ちゃんと助けてもらえなくてよ。…すまなかった。
こころにも、もう守ってやれなくてすまない、と伝えといてくれるか?大切な妹なんだ…」

ル「何言ってんだよ?!馬鹿なことを言うな!こころだって同じ事言うぞ!
…誰か、手当てを!エースを、エースを、助けてくれ!なぁ、誰か!エースを!なぁ?!」

『いやッ…』



ドクターが、エースの元に駆け寄る。



「エース、無事か?!」

ル「早くエースを!」

「あぁ、傷を見せろ!」

ル「頼む!」

「ッ!…これは…」

ル「え?…おい!どうしたんだよ?!早く助けてくれよ!」

「すまん…」

ル「…何だよ、それ!?どういうことだよ?!何とかしてくれよ!な、おい!お前医者だろ?!」

エ「無駄だ。内臓を焼かれたんだ。もう、もたねぇ…。自分の命の終わりぐらいわかる。」

『ッ―…』

エ「そんなこと…、そうだ!イワちゃん!なぁ、頼む!あれを、エースに打ってくれ!なぁ?俺にしてくれたように、エースを助けてくれよ。
なぁ、頼む、頼むよ!エースを、エースを、エースにもあれを、あれを打ってくれ!」

イワ「麦わらボーイ!エースボーイは、もう…」

ル「う、嘘だ…約束したじゃねぇかよ。お前、絶対死なねぇって、言ったじゃねぇかよ!エース!」



ルフィの視線が、ぐらぐらと揺れる。



エ「俺は、生きようとも思わなかった…。サボの件と、お前みてぇな、世話の焼ける弟がいなきゃな。
それに、はた迷惑な妹に出会っちまった…。
そうだ、お前いつかダダンに会ったら、よろしく言っといてくれよ。
なんだか、死ぬとわかったら、あんな奴でも懐かしい…」

ル「だから死ぬなんて…!」

エ「心残りは、ひとつある。お前の夢の果てを、見られねぇことだ。だけど、お前なら必ずやれる。俺の弟だ。
あの日、誓い合ったとおり、俺の人生には、悔いは、ない。」

ル「嘘だ!嘘つけぇ!!」

エ「嘘じゃねぇ。俺が本当に欲しかったものは、どうやら名声なんかじゃなかったんだ。
俺は、生まれて来てもよかったのか、欲しかったのは、その答えだった。
もう、みんなに届くような声は出せねぇ。俺がこれから言うことを、後からみんなに伝えてくれ。
オヤジ、みんな、そしてルフィ、こころ…
今日まで、こんなどうしようもねぇ俺を、鬼の血を引く、この俺を、愛してくれて、…ありがとう!」




何を、話しているの?

ルフィ、なんで泣いているの?

…?!




ルフィの手の中から、エースの体がゆっくりと落下して行く。




お願い、待って。

そんな、エースが、・・・・・・・待って!

まだいかないで。

さっき笑って私の名前を呼んでくれたじゃない。

そんな・・・そんな・・・



『いやぁあああああああああああああ!!!!!!』






こころが叫んだ瞬間、強い覇気がマリンフォードを襲った。
 
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