wander a glow
□トロスト区奪還作戦
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『ミカサ、剣をしまって』
「・・・・・」
『私の命令』
「…でも」
「エレン?」
「エレン!」
『あら、おはよう』
振り返ると、エレンが目を覚ましていた。
しかし壁の一角に追い込まれ、しかも幾人もの兵士に剣を向けられているこの状況に驚いている。
『ほらミカサ、エレンの所に戻りなさい』
「…っ―」
何か言いたそうな顔をしながら、ミカサは兵士たちに背を向けた。
ふぅっと息を吐いて腕組みをする。
『あなたが指揮官?…剣を降ろさせて』
「それはできん!」
『なんで?人間同士いがみ合ってもしょうがないでしょ』
「貴女ともあろう人が非常に残念だ!…貴様等がやっている行為は反逆行為!貴様等の命の所有を問わせてもらう!
下手に誤魔化そうとしたり、そこから動こうとした場合は、直ちに榴弾をぶち込む!ためらうつもりはない!」
「は…?」
「率直に問う!貴様の正体はなんだ?!…人か?巨人か?」
『そんなの、』
「質問の意味が、わかりません!!」
人間て答えれば良いものを…
「しらをきる気か?化け物め!もう一度やってみろ!貴様を粉々にしてやる!一瞬だ!正体を現す暇など与えん!!」
「正体…?」
「大勢の者がみたんだ!おまえが巨人の体内から姿を現す瞬間をな!我々人類は、おまえのような得体の知れない者をウォール・ローゼ内に侵入させてしまっているのだ!」
『うんうん、もういいよ。分かったから』
組んでいた両手をほどいて、右手をひらひらさせる。
「私は間違っていない!」
『うん、だから、あなたが臆病なことは良く分かったわ』
「なっ!?」
『その体内から出てきたエレンがいた巨人は捕食対象者だった』
「それがなんだ!!」
『…さっきの質問、エレンは人間か巨人かって。答えは"人間"に決まってるじゃないですか』
「しかし大勢の者が見たのだ!そいつは化け物だ!」
『人間だとお思いにならない?』
「なるか!!」
『本当に?』
「・・・・な、ならん!」
『そうですか、残念。…榴弾を撃つようなら、ミカサじゃないけどその時は私、剣を抜きますよ』
「…?!」
『駐屯兵団の皆さんは私の腕前、見たことありましたっけ?』
体を後ろに引いた兵士たちに向かってにこりと笑顔を返す。
「もう一度問う!貴様の正体はなんだ?!」
『私の話、聞いてた?』
肩をすくめてみせて、エレンの返答を待つ。
後ろは振り向かない。
「人間です!!」
一瞬、シンとした。
エレンの答えは間違っていない。
だけど、
「そうか。悪く思うな。仕方ないことだ。誰も自分が悪魔じゃないことを証明できないのだから…。」
指揮をとって喚き散らしていた男の右手があがった。
『宣戦布告はそっちだから』
刀身ボックスに収まっている柄に手を伸ばす。
「「こころ!!」」
『え…?』
ミカサとアルミンが突如目の前に現れたかと思ったら、私に向かってタックルしてきた。
勢い良く三人一緒に倒れこむ。
『っ痛!』
「ごめん、こころ教官!」
『だから教官はいらないって…』
私は仰向けのまま、それを見上げた。
『…立派なもんね』
「お、驚かないんですか…?!」
『別に?…それに私は知っている事が一つある』
「そっ、」
「アルミン、エレンが私達を守った。今はそれだけ理解できればいい。」
「・・・・・」
『ところでそのエレンはどこ?』
体を起こしながらそう言った時、巨人の肋骨の外側からエレンが走ってきて内側を覗きこんだ。
「おい、大丈夫か?おまえら!」
『エレン。私の今の話し合いが無駄になったじゃない』
「す、すみません…!覚えてなくて」
『覚えてない?』
「エレン、これは?!」
「分からん!ただ、こいつはもう蒸発する!巨人の死体と同じだ、少し離れるぞ!」
エレンの言葉と共に私達は蒸発していく巨人から離れる。
『巨人化はまずかったけど、もし向こうが攻撃を続行してきても、宣戦布告はあっちだからね』
煙に包まれてよく見えないが、まだ固まっている駐屯兵に目を凝らす。
「剣は、抜かないんじゃ…?」
『え?そうだっけ?』
自分の言葉にとぼけてみせると、エレンの口が動いていた。
『なに?』
「一つだけ、思い出した。地下室だ。俺ん家の地下室、そこに行けば全て分かるって親父が言ってた。
俺がこうなっちまった原因も親父だ。地下室に行けばおそらく、巨人の正体も分かるんだ。」
『………』
「くそッ!!だとしたらなんで隠した?!何千人もの調査兵団が命を落としても求め続けた人類の希望ってやつじゃないのか!
それを俺ん家の地下室に大事に閉まっていたって言うのか?何考えてんだ、いったい…」
蒸発していく巨人の肋骨を拳で叩きつけ、怒りを露わにしているエレンの肩をミカサが掴んだ。
「エレン、今は他にすべきことがある。」
『そうね。…アルミン、一緒にまた交渉に行くよ』
「ぼ、僕ですか?」
『そう、三人の中で一番頭がきれそうだから』
「え?でも…僕じゃ…」
迷って立ちつくしているアルミンに、エレンが声をかけた。
「アルミン、おまえってヤバい時ほど、どの行動が正解か当てることができただろ。それに頼りたい」
『ほら、仲間の信頼も厚いじゃない』
下を向いていたアルミンの顔があがる。
その目は決意に満ちていた。
ア「必ず説得してみせる!こころ、行こう」
『了解』
迷っていたアルミンが、今は前を向いている。
さぁ、頭を働かせてね。
…
「彼は、人類の敵ではありません!私達には知り得た情報をすべて開示する意志があります!」
両手をあげて抵抗の意思がないことを表示しながら、アルミンが説得にかかる。
「命乞いに貸す耳は無い!目の前で正体を現しておいて今さら何を言う!ヤツが巨人でないと言うのなら証拠を出せ!それができなければ、危険を排除するまでだ!」
「証拠は必要ありません!そもそも我々が彼をどう認識するかは問題ではないのです!」
「何だと!?」
『私の話本当に聞いてた?それとも聞き流すことが貴方の特技?…言ったでしょう、エレンは捕食対象者だって。ね、アルミンも見たはずよ』
「はい!…我々がいくら知恵を絞ろうとも、この事実だけは動きません!!」
大声をはり上げるアルミンの声に、駐屯兵たちは疑問を持ち始めたみたいだ。
しかし一人だけ態度が違った。
「迎撃態勢をとれ!ヤツらの巧妙な罠に惑わされるな!ヤツらの行動は常に我々の理解を超える!」
「なっ!」
『やっぱり臆病者ね』
聞く耳を持たない男に愛想を尽かした私の隣で、アルミンが左胸に拳をあてて更に叫ぶ。
「私はとうに、人類復興の為なら心臓を捧げると誓った兵士!その信念に従った末に命が果てるのなら本望!
彼の持つ"巨人の力"と、残存する兵力が組み合わされば、この街の奪還も不可能ではありません!
人類の栄光を願い、これから死に行くせめてもの間に、彼の戦術的価値を説きます!!」
この説得にも、彼は耳をかさないつもりか。
男の右腕があがる。
「よさんか。相変わらず図体の割りには子鹿のように繊細な男じゃ」
そのあがった右手が振り下ろされる前に、新たな闖入者によって目論見は阻止された。
「ピクシス指令!」
「お前にはあの者の見事な敬礼が見えんのか。」
アルミンを振り返ると、完全に目を瞑っていた。
「おや、調査兵団の女神さんが残っておったか」