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□荒井のトラブル
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『あ!もう始まってる!?』


両手にスポーツドリンクの入ったキーパーを持ってテニスコートへ向かう途中、
遠目から見ると、練習はもう始まっているみたいだった。


「こころちゃーん!!」

『う゛…』


名前を呼ばれたのは一瞬で、その後すぐに背中に重圧がかかった。

こういうスキンシップをとるのはただ一人…


『菊丸先輩、重いです』

「こころちゃんに会いたかったよん」

『そうですか、それはありがとうございます』

「こころは英二に手厳しいね。それ持とうか?」

『いいえダメですダメです!私の仕事ですから!』

「そう?」

『はい!』


キーパーを持ったまま、ガッツボーズをすると、

「うちのマネージャーは頼もしいね」

そう微笑む大石先輩の言葉に嬉しくなって、そのままレギュラー陣と一緒にテニスコート内へ入る。

レギュラー陣の登場に、1年生は目を輝かせ、2年生は誇らしげだ。


「新入生も部の雰囲気に慣れてもらいたいから、空いてるコートに入って自由に打ってもいいよ」


大石先輩が優しく言うと、1年生から歓声があがった。

レギュラー陣は相手に返す球をすべて籠に入れると言う練習に取り組み始め、私は両手に持ったキーパーをとりあえずベンチへ置いた。


『やぁ、越前君。ちゃんとポカリ飲んだ?』

「…」


そんな私の問いに答えず、上を見上げている。


『…何?』


手をかざして目を向けると、太陽の中から黄色いテニスボールが落ちてきた。

それを越前君は、レギュラー陣と同じく籠へ返す。


「案外簡単だね」


こんなことを言える余裕が、彼にはあるのだ…


『へぇ、やっぱ君…、』


凄いね、と言おうとしたところで、突然荒井が越前君に掴みかかろうとした。

とっさに2人の間に割って入る。


『ちょっと!また1年に手をあげるつもり?』

「そこをどけ神原!一年坊主がしゃしゃり出る場じゃねぇんだよ!」

「コート内で何を揉めている?」

『あ、手塚部長!』


助かった!ナイスタイミングです、部長!

そう思いながら手塚部長に、ひらひらと小さく手を振る。

が、チラッとこちらを見ただけだった。


「騒ぎを起こした罰だ、2人共グラウンド10周、」

「ちょっと待って下さいよ、こいつが…」

「20周だ。」

「は、はい!」

「神原」

『わ、私は2人を止めただけで…』

「分かってる」

『…手塚先輩!私一生ついて行きます!』


さすが部長!1年間の絆がここに!


「あれだから噂がたったりしたんじゃないかな」

「自分で気付いてないからね」


「全員ウォーミングアップ!すんだ者から2年、3年はコートに入れ!1年は球拾いの準備!!」

「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」


うん、やっぱり部長がいると引き締る。

私ももう一つドリンク作らなきゃ。
 
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