middle of a dream
□番号の由縁
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-常盤慶次の場合-
一週間の鶏舎棟の当番が終わった頃、そろそろ良い頃合いだよな、と見計らって
さぁ、元気よく!!
常「こころ!」
『?』
常「ケー番とアドレス教えて!」
『やだ。』
ぐっ…
思わず「OTZ」←この姿勢になりそうになった、が!これも予想内。
神原こころ。A班きって…いや、1-Dきってのめんこい女子!(だと思う)
ただ性格に問題あり(な気がする)。それも含めて可愛いんだけど。
常「同じ班だからお互い知ってて損はないだろ?!」
めげずに事前に考えてあった言葉を並べる。
『…私べつに常盤に用事ないし。』
常「………」
手強い。
しかも今なんかグサッっときた。心が痛い。
しかしここで折れるわけには…!
常「た、例えば!鶏の事は俺の方が詳しい。」
『うん。で?』
常「だから、…だから、数学教えてくれー!!」
『八軒に頼めばいいじゃん。』
常「それもそうなんだけどよー、」
って違う!
目的すり変わってる!
常「とにかく、何かあってからじゃ遅いだろ!」
うん、そうだそうだ、
『何かって何?』
常「例えば、風邪引いたりとか、」
『その時はタマコちゃんに伝言頼むよ。』
常「タマコも風邪引かないとは限んないだろ?」
折れろー!
折れてくれー!
…頼む!!
『それもそうだね。』
やっ!!!
『分かった。』
たー!!!!!
『何ガッツポーズしてんの?』
常「いや、なんでもねえ!」
『あっそ。じゃぁ後でね。』
常「おう!」
全国の男子諸君!
常盤慶次、こころのケー番とアドレス、ゲットしました!!
…
-相川進之介の場合-
それはゴールデンウィーク明け早々、授業のため豚舎にぞろぞろと移動している時だった。
『ねぇ相川君、ケータイの番号教えて。』
クラスメイトで同じA班の神原さんが自然に隣に来て、道を尋ねるかのように事も無げにそう言うものだから、
相「…え?!」
言葉の意味を理解し損ねて反応が遅れた。
『それかアドレスだけでもいいけど。』
「もちろん。…いいよ。」
どうしたんだろう?急に。
ドキドキしていると、
『ありがとう。常盤が同じ班だし連絡とれた方が良いって言ってて。』
ああ…
相「なるほど。」
期待していたのとはまるで違…
期待ってなにを?!
『一理あるかなって思った。』
相「うん。そうだね。」
『?』
生返事だと見破られたのか、神原さんが眉間にしわを寄せた。
『何か心配事?』
相「いや、そんなんじゃないよ。」
『そう。本当はゴールデンウィーク入る前に聞こうと思ったんだけど。…あ、ゴールデンウィークは休めた?』
相「うーん、どうかな。家の手伝いしてた。神原さん、」
『ん?』
相「ごめん。行けなくて。」
『?』
きょとんとしたまま首を少し傾げられた。
話す順番間違えたな…。
相「神原さん家の観光牧場に…」
そこまで言っても、ますますわけが分からないというように、更に首を傾げる。
『なんで謝るの?行くのも行かないのも相川君の自由だよ。』
その一言に自分の口から、ははっと小さくて短い安堵の笑いが出た。
相「神原さんらしいね。」
『?…なにが?』
相「なんでもないよ。」
『?』
神原さんは不思議そうに瞬きをしていた。
もう豚舎に着く。
彼女は本当は優しい子だってことを、理解している人はどれくらい居るんだろう?
そのうちの一人が僕だったらいい。
…
-駒場一郎の場合-
『いっちゃんはケータイ、…持ってなかった。』
駒「なんだ?いきなり。」
『A班のみんなに番号聞いて周ってんの。』
以前のこころからは想像もつかないその言葉に、正直驚いた。
駒「そうか。」
ケータイなんて今まで必要と感じた事は無い。
そもそも家じゃ持ってても電波拾えねーし。
こころとは中学も一緒、家も近い、結論、家電で十分。気付けば高校も一緒、今度は寮生活。
だからケータイの話題が出るとは思わなかった。
でも今は、少なくとも変わって行くんだな。
『別になくても変わんないよね。』
にっと口角をあげてこころは指を一つずつ折っていく。
『普段寮だし、同じクラスだし、家の番号知ってるでしょ。それに家近いし。』
思わず頭を抱えてため息をつきたくなった。
『部活が違うことも、ケータイ持ってなかった中学の時と変わんないもんね。』
そう言って笑いかけてくる。
あの頃よりずいぶん表情が明るい。
こころが他人に心をなかなか開かないことも知っている。
だからこの屈託ない笑顔は、少なくとも友達の中でも特別だと思いたい。
もし距離が縮まらなくても、こころが笑ってくれりゃそれでいいんだ。
『あー!いっちゃんが笑った!』
きっと大丈夫だ。