middle of a dream
□夏休み その2
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『座って。』
八「はい…。」
俺の部屋なのに(御影ん家だが)正座をしてしまった。
なぜこんな事態に陥ったのか。
それはわずか7分前…。
…
一仕事の間の休憩。
麦茶にスイカ、テレビは夏の高校野球の中継が映し出されていた。
祖父「ありゃー、負けたか。」
祖母「3-2?惜しかったねぇ。」
祖父「甲子園、暑そうだな〜」
御「エゾノーが勝ってたら私達今頃あのスタンドにいたかもね。」
母「次の世代はどうなの?いっちゃんは秋からレギュラーになれそう?」
御「わかんないけど今頃合宿入ってバリバリやってると思うよ。」
八「夏休み返上で合宿?」
『そう、練習と遠征でほぼ休みなしだって。』
御「こころ、いっちゃんに会ったんだよね?」
『ん…うん。』
八「?」
母「そうだ八軒君、休みで思い出した!うち来てからお休みもらってないっしょ?息抜きにどこか行っといで!」
八「どこか…………って、どこへ?」
駒場ん家さえあんなに遠かった事を思い出す。
母「車出してあげるよ。近場で行きたい所無いかい?」
八「ええと…この近場で遊べる所って……?」
母「イトー●ーカドーかな!」
八「………」
母「ここから100kmくらいだからすぐ行けるし!」
八「………」
母「車で1時間くらいかな!」
八「……えーと………」
あ!
八「こころん家は?観光牧場…」
『………』
八「?!」
あれ…?すっごい睨まれてる…。
ま、まずいこと言ったかな?…御影さーん、助け…
スイカ持ったまま固まってる!?
どうなって…
『…八軒の部屋、どこ?』
八「え。」
『自分で言うのもなんだけど、甘えてる話しだから、……空気読んで。』
二の句を告げるなという無言の圧力。
まさか空気読まなそうなこころから"空気読んで"と言われるとは…!
八「…分かった。」
素直に頷く事しか出来なかった。
…
そして現在に至る。
こころは座るなりため息をついた。
『…まさかよりによって八軒に話すだなんて…』
八「いや、無理にとは…」
『だいたい八軒が手伝いに来るから。』
八「俺のせい?!」
『…違う。私が畑って言ったからかも…』
そう言って盛大に首をひねっている。
なんか、学校と雰囲気違うな。
やっぱ地元だからかなー。
『いっちゃんも夢のこと八軒に話してて正直驚いた。何か持ってるのかもね、あんた。』
八「褒められてる…?」
『だいたい、電波も立たない山奥に観光牧場ひらいたってしょうがないでしょ。』
八「う゛…」
ごもっともで。
でも、
八「じゃあ…」
『前も言った通り実家は"ゆめみち観光牧場"。ゆめみちって言うのは祖父ちゃんの名前ね。』
八「はぁ…」
『その実家は帯広にある。』
八「帯広?!学校から近いじゃん!」
『うん、そうだね。駅からバス通ってるし車でも行けるから交通の便が良くて、そこそこ繁盛してるのよ。』
苦笑ともつかぬ顔で話すそれは、
それは補足説明であって
八「…本題じゃないだろ?」
こころの顔が一瞬強張った。
地雷踏んだか、と心の中で構えていたが、ゆるゆると表情が元に戻る。
そして口を開いた。
『私、中学からこっちに来たの。今いる家は祖父ちゃんと祖母ちゃん家。……私、兄と姉がいるから家継ぐわけじゃないし…その、』
あぁ、なんとなく分かった。
分かった気がした。
最初は違うと思っていたが、知らないうちに薄々気づいていたのかもしれない。
こころは俺に少し似ている。(って口に出したら怒られそうだが…)
『夢とか分かんないの。道が多すぎて。どれがしたいのか何になりたいのか。八軒のこと、偉そうに言えたもんじゃないね。』
八「俺だって…全然夢持ってねぇよ…。」
その言葉にこころは寂しそうな顔をしてこくりと小さく頷いた。
でも、俺は一つ気付いた。こころは自分では気付いてないのか?
八「こころ…」
なんでそんな顔してんだ?
全然、らしくねーよ。
『こう話すと本当に私のわがままなんだけど…』
そこまで言って、パンッと手を打たれ、その音にびくりとした。
『…はい、話し終わり!ということで、うちはまた今度ね。』
八「…あ、ああ。」
唐突に話を打ち切られた。
『ねぇ、』
八「?」
『八軒から、私はどう見える?逃げてきたように、見える?』
八「見えない。」
キッパリと言ってやった。
こころだけじゃない、自分にも言い聞かせるように…。
『ありがとう。』
微笑んだその顔をビックリしてじーっと見つめていたら、
『なに?』
すぐに鋭い目つきと言葉が飛んできた。
八「いや、なんでも…」
なんでも…
『そうだ、出来ればアキの話も訊いてあげて。』
八「?…うん。」
こころって…、実はすごく良い奴?
"全部八軒が作りあげたんだよこの景色。"
夫を立てるタイプか?
"ハチは分かってねぇな。"
……。
…あれ?
あれ?
まさか、そんなはずはない。
「なあ、こころ」
『なに?』
「頭いいよな?なら、普通の高校行けたんじゃないか?」
『………』
「それでもエゾノー選んだってことは…」
『流鏑馬やりたかっただけだよ…』
そう言うと、また微笑んだ。
入学して4か月ちょっと、こころが俺に向けた最初の笑顔だった。