middle of a dream

□ピザが食べたい
1ページ/4ページ

 
大「おっ!初心者連中見てみろよ。」

豊「もうあれの域に達したのね。」

大「これ見ると春も終わりって感じがするよな〜〜〜、下半身筋肉痛。」



大川先輩と豊西先輩の言葉通り、私とアキ以外の一年生の4人は、足をプルプルさせながら千鳥足で歩いている。



御「馬に乗り始めの頃はみんなそうなるから、通過儀礼みたいなものよ。」

八「どうすれば、いいのでしょうか…。」

御「堪えて。」



容赦ないアキの言葉に、八軒の目から涙が溢れ出た。



八「自分の足を使わなくていいから楽かも、なんて甘かった…!!馬術ってこんなに筋肉使うのか………!!」



ていうか、そんな理由で馬術部入ったのかこいつは。



八「手ぇ離して乗るなんて、神業…」

『今頃気づいたか。』

八「ほんと、すげーよ…」

『どんなもんだいっ』



これみよがしに八軒に向かって胸を張ると、豊西先輩がクスクスと笑った。



『先輩?』

豊「いや、神原が八軒に心開き始めたなと思って。」

『まさか!やめてくださいよ。』



何を言い出すのやら…。

とんでもない事を言いだした先輩に反抗していると、「轢くぞー」と声がして、八軒達の側にトラクターが止まった。



「ふらふら歩いてんなよハチ!」

八「西川!」



ん?

今、西川って言った…?



二人は何か話し始めたが、知った事ではない。

私はずんずんとトラクターに向かう。



八「あ、おい、こころ!」



階段を二段登ったところで、八軒が声をかけてきた。



『八軒、ちょっと向こう行ってて。』

八「はあ?なんでだよ!」

『いいから、行ってて。』



声のトーンを落として言ったのが効いたのか、八軒は不服そうな顔をしながらも、2、3歩下がった。

私はそれを確認して最後の一段を上がり、操縦席の扉を閉める。



『あんたが西川?』

西「…やぁ、お姫さん。」



西川は首をひねって顔だけ私に向けた。



『それ、その呼び名やめてくれない?』

西「?」

『八軒に教えたの、あんたでしょ。』

西「そうだけど。声ひそめる必要あんの?」

『ある。』

西「・・・あー…イマイチ状況が呑み込めないんだが…」

『だから、』



そこまで言って、私はため息をついた。



『その呼び名、どこで知ったの?』

西「弓道の大会、一回だけ見に行ったことがあってそん時に。誰かが話してたんだよ…確か。」

『そう…』

西「すげーかっこ良かったぜ?」

『それは、…どうもありがとう。』



西川は、どうやら悪気はないらしい。

しかもその経緯を知らない。……知らないのは、当然か。

当時のクラスの人でさえ知らない人は知らなかったんだもの。



『もう一度言うけど、その呼び名、やめてくれる?』

西「…ああ、別に構わねぇが…なんで?」

『…理由、聞くの?』

西「一応な。」

『そう…』



運転席に座っている西川を見下ろしているのも疲れたので、狭いスペースにお尻をつけないで座る。



『そのあだ名、誰が言い出したのかわからないんだけど…』



一つ小さく息を吐く。



『…先輩は快く思ってなかったんだろうね、…そのうち、無視(シカト)されるようになった。』



言い終わってから、ちらっと西川を盗み見たが、彼は黙ったまま前を見つめていた。

ありがたい…。



『まぁ、弓道は個人競技みたいなもんだから、別に、無視(シカト)もそのうち馴れたけど。』

西「そうか。」

『うん。先輩が卒業した瞬間終わったし。』

西「・・・・・」

『だから、』

西「ああ、もう呼ばねぇよ。」

『もう一つ。このこと八軒には…』

西「分かってる。あいつお人好しだからなー。」

『…うん、ありがとう。どんな奴かと思ったけど、西川良い人だね。』

西「んあ?・・・おまえも良い女だな。」



・・・・・。

どこで覚えるんだろう、そんなセリフ…。



ポカーンとしていると、西川が八軒に声をかけていて、奴までこの狭い操縦席に乗りこんできた。



八「おまえら何話してたんだ?」

『八軒には関係ないこと。』

八「・・・・・」

西「ハチ、おまえもそのうち分かる。」

八「?」

『いや、一生分からなくていい。』

八「もー!なんだよ!!」



西「さて、寝ワラ運ぶか!」



西川の合図と共に、中島先生に頼まれた寝ワラ運びをする為、トラクターは走り出した。

八軒が横で歓喜の声をあげ、西川はトラクターの概要を呪文のごとく説明し始めた。

そしてレバーをガチャガチャと動かし、寝ワラを持ち上げる。



西「〜〜〜見よこのパワー!!最少旋回半径4.5m、最高速度33km/h!!!」

八「遅っ!!」



あぁ、降りれば良かった…





























八「今、気付いたんだけど馬の寝ワラって学校で穫れたやつ使ってんだな。」

中「寝ワラだけではありませんよ。エサの飼い葉や燕麦など、すべてエゾノー産、つまり国産100%ですね。」

八「へー麦も作ってるんだ。」



へぇー…凄い。



中「この学校は作物、畜産、食品加工、林業、土木と揃っています。学校まるごと自給自足が可能ですよ。
君達もこの学校の中で作りたい物ややりたい事があったら、農場の先生に相談してみるといい。大抵の事は挑戦させてくれますよ。」

西「マジっスか!?」

『はい、先生。』

中「なんですか?神原さん。」

『はやく流鏑馬の馬場つくってください。』

中「・・・・・。そのうち。」



仏の顔の中島先生が一瞬渋った顔をしたのを、私は見逃さなかった。

と、同時に閃いた。



『土木科。大川先輩…』



うん、直接交渉といこう。



『では、行ってきます。』


西「おう、いってら!」



八「はぁ…あいつも御影も、馬の事となると生き生きするなー。」

西「惚れたか?」

八「?!?!…西川、冗談キツイぞ。」

西「(いや、冗談じゃなかったんだが…)」

八「だってこころ、人を"馬鹿"呼ばわりするわ何考えてるか分からんわ…ほんと、あれのどこがいいんだ?」

西「ハチは分かってねぇな。」

八「なにが!?・・・て言うか西川、もしかして、…こころのこと…」

西「好きだぜ。」



冗談ではない西川の言葉に、八軒の口があんぐりと開いた。


こころはそのことを、知る由もない。
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ