middle of a dream
□ピザが食べたい
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大「おっ!初心者連中見てみろよ。」
豊「もうあれの域に達したのね。」
大「これ見ると春も終わりって感じがするよな〜〜〜、下半身筋肉痛。」
大川先輩と豊西先輩の言葉通り、私とアキ以外の一年生の4人は、足をプルプルさせながら千鳥足で歩いている。
御「馬に乗り始めの頃はみんなそうなるから、通過儀礼みたいなものよ。」
八「どうすれば、いいのでしょうか…。」
御「堪えて。」
容赦ないアキの言葉に、八軒の目から涙が溢れ出た。
八「自分の足を使わなくていいから楽かも、なんて甘かった…!!馬術ってこんなに筋肉使うのか………!!」
ていうか、そんな理由で馬術部入ったのかこいつは。
八「手ぇ離して乗るなんて、神業…」
『今頃気づいたか。』
八「ほんと、すげーよ…」
『どんなもんだいっ』
これみよがしに八軒に向かって胸を張ると、豊西先輩がクスクスと笑った。
『先輩?』
豊「いや、神原が八軒に心開き始めたなと思って。」
『まさか!やめてくださいよ。』
何を言い出すのやら…。
とんでもない事を言いだした先輩に反抗していると、「轢くぞー」と声がして、八軒達の側にトラクターが止まった。
「ふらふら歩いてんなよハチ!」
八「西川!」
ん?
今、西川って言った…?
二人は何か話し始めたが、知った事ではない。
私はずんずんとトラクターに向かう。
八「あ、おい、こころ!」
階段を二段登ったところで、八軒が声をかけてきた。
『八軒、ちょっと向こう行ってて。』
八「はあ?なんでだよ!」
『いいから、行ってて。』
声のトーンを落として言ったのが効いたのか、八軒は不服そうな顔をしながらも、2、3歩下がった。
私はそれを確認して最後の一段を上がり、操縦席の扉を閉める。
『あんたが西川?』
西「…やぁ、お姫さん。」
西川は首をひねって顔だけ私に向けた。
『それ、その呼び名やめてくれない?』
西「?」
『八軒に教えたの、あんたでしょ。』
西「そうだけど。声ひそめる必要あんの?」
『ある。』
西「・・・あー…イマイチ状況が呑み込めないんだが…」
『だから、』
そこまで言って、私はため息をついた。
『その呼び名、どこで知ったの?』
西「弓道の大会、一回だけ見に行ったことがあってそん時に。誰かが話してたんだよ…確か。」
『そう…』
西「すげーかっこ良かったぜ?」
『それは、…どうもありがとう。』
西川は、どうやら悪気はないらしい。
しかもその経緯を知らない。……知らないのは、当然か。
当時のクラスの人でさえ知らない人は知らなかったんだもの。
『もう一度言うけど、その呼び名、やめてくれる?』
西「…ああ、別に構わねぇが…なんで?」
『…理由、聞くの?』
西「一応な。」
『そう…』
運転席に座っている西川を見下ろしているのも疲れたので、狭いスペースにお尻をつけないで座る。
『そのあだ名、誰が言い出したのかわからないんだけど…』
一つ小さく息を吐く。
『…先輩は快く思ってなかったんだろうね、…そのうち、無視(シカト)されるようになった。』
言い終わってから、ちらっと西川を盗み見たが、彼は黙ったまま前を見つめていた。
ありがたい…。
『まぁ、弓道は個人競技みたいなもんだから、別に、無視(シカト)もそのうち馴れたけど。』
西「そうか。」
『うん。先輩が卒業した瞬間終わったし。』
西「・・・・・」
『だから、』
西「ああ、もう呼ばねぇよ。」
『もう一つ。このこと八軒には…』
西「分かってる。あいつお人好しだからなー。」
『…うん、ありがとう。どんな奴かと思ったけど、西川良い人だね。』
西「んあ?・・・おまえも良い女だな。」
・・・・・。
どこで覚えるんだろう、そんなセリフ…。
ポカーンとしていると、西川が八軒に声をかけていて、奴までこの狭い操縦席に乗りこんできた。
八「おまえら何話してたんだ?」
『八軒には関係ないこと。』
八「・・・・・」
西「ハチ、おまえもそのうち分かる。」
八「?」
『いや、一生分からなくていい。』
八「もー!なんだよ!!」
西「さて、寝ワラ運ぶか!」
西川の合図と共に、中島先生に頼まれた寝ワラ運びをする為、トラクターは走り出した。
八軒が横で歓喜の声をあげ、西川はトラクターの概要を呪文のごとく説明し始めた。
そしてレバーをガチャガチャと動かし、寝ワラを持ち上げる。
西「〜〜〜見よこのパワー!!最少旋回半径4.5m、最高速度33km/h!!!」
八「遅っ!!」
あぁ、降りれば良かった…
…
八「今、気付いたんだけど馬の寝ワラって学校で穫れたやつ使ってんだな。」
中「寝ワラだけではありませんよ。エサの飼い葉や燕麦など、すべてエゾノー産、つまり国産100%ですね。」
八「へー麦も作ってるんだ。」
へぇー…凄い。
中「この学校は作物、畜産、食品加工、林業、土木と揃っています。学校まるごと自給自足が可能ですよ。
君達もこの学校の中で作りたい物ややりたい事があったら、農場の先生に相談してみるといい。大抵の事は挑戦させてくれますよ。」
西「マジっスか!?」
『はい、先生。』
中「なんですか?神原さん。」
『はやく流鏑馬の馬場つくってください。』
中「・・・・・。そのうち。」
仏の顔の中島先生が一瞬渋った顔をしたのを、私は見逃さなかった。
と、同時に閃いた。
『土木科。大川先輩…』
うん、直接交渉といこう。
『では、行ってきます。』
西「おう、いってら!」
八「はぁ…あいつも御影も、馬の事となると生き生きするなー。」
西「惚れたか?」
八「?!?!…西川、冗談キツイぞ。」
西「(いや、冗談じゃなかったんだが…)」
八「だってこころ、人を"馬鹿"呼ばわりするわ何考えてるか分からんわ…ほんと、あれのどこがいいんだ?」
西「ハチは分かってねぇな。」
八「なにが!?・・・て言うか西川、もしかして、…こころのこと…」
西「好きだぜ。」
冗談ではない西川の言葉に、八軒の口があんぐりと開いた。
こころはそのことを、知る由もない。