middle of a dream

□ばんえい競馬
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アキが"馬鹿"を遊びに誘っているのを横目で見ていたら、当然のごとく私もアキに誘われた。

集合場所は帯広競馬場。アキん家の馬が出走するらしい。

そこまではいい、ただ予想外なのは…



駒「ほれ、たい焼き。」

『うん…ありがとう…』



なんでいっちゃんも?



御「あ、いたいた。こころ〜、いっちゃーん。」

駒「おう。」

八「なんで駒場がここにいんだよ!こころがいるのは知ってたけど!」



あぁ…

私、"馬鹿"と同じ頭してるの?



駒「部活の先輩方、今日は遠征でいないんだわ。一年は午前中で練習終わり。」

『「あっそう…」』

御「わ、ハモった!」

『アキ、そこ感動するところじゃない。』

駒「おまえら仲良いよな、」

八「仲良く見えるのか…?」

『見えないでしょ。やめてよね、いっちゃんまで。』

駒「あーでも…中学の時のこころよりマシだ。」

八「…中学?」



"馬鹿"が首をかしげる。

アキは少し慌てたように右往左往し、私はそれを見てため息をつく。

いっちゃんは真っ直ぐすぎるから、悪びれた様子も無くすぐ人の地雷を踏む。



『まぁ、あのクラスは、なんていうか、気さくな人ばかりだから…馴染みやすいよ。・・・部活も。』

駒「そうか。」



あっさりとそう言って、いっちゃんは持っていたたい焼きをもぐもぐと頬張った。



八「…中学?」



納得してないのか、"馬鹿"がまた同じ言葉を繰り返す。



『"馬鹿"は知らなくていいこと。』

八「・・・。」



私の言葉にムッとしたみたいだが、それでも、本当に知らなくていいこと。

知ったらきっとこいつは困った顔をして同情する。


"無視(シカト)"があったなんて、

知らなくていい。



『それよりアキん家の馬、出走するんでしょ?』

御「うん、そうそう!」



嬉しそうに頷いて、アキは輓場(ばんば)の説明を始める。



御「ばんえい競馬ってのは世界で唯一の[ひき馬]競馬として北海道遺産に選定されてるのよ。

開拓時代の名残なんだよね。自分とこの農場馬が一番強い!って農家が馬の力比べをしたのが始まり。

それが地域の祭典になって、昭和時代に光栄化したの。

小と大、ふたつの障害がある直線200mのセパレートコースで最大10頭が出走。その坂を越える所が見所ね!

普通の競馬と違って人間の歩く速さでレ−スが展開されるから、馬との一体感が楽しめるよ!」






第一障害が見えるあたりに着いて間もなく、レースは始まった。

馬は480kgのそりに乗った人間を引っ張って出走する。

駆け引き、馬と騎手の息を合わせ、力とタイミングで障害を突破して行く。

まわりもうるさければ、"馬鹿"もうるさい。




アキん家の馬、5番のミカゲホマレは―――























































八「あ〜〜〜惜しかったな〜〜〜!」



競馬場の食堂のイスに座りながら、"馬鹿"が声をあげた。


八「三位!三位か〜〜〜!一位かと思ったのにな〜〜〜!」



途中まで一位だったミカゲホマレは、ゴール直前で止まってしまった。

その結果が3位…



御「私は三着でも充分だよ!お金賭けてる人にとってはどうかわかんないけど。」



ふと、馬術部顧問の中島先生の顔が思い浮かんだ。

あの人はミカゲホマレの馬券を買っていた。



八「え〜〜〜…でももうちょっと頑張れれば一位取れたんじゃねーの?」

『ミカゲホマレは頑張ったよ。"馬鹿"は、一位が好きなの?』

八「え…、や…でも普通の競馬みたいに鼻でゴールだったら良かったな〜〜…」

『農耕馬は荷物運びきるまでが仕事だからね。』

八「そっかー……」



なんか、話し逸らされた…?



御「でもほんと良かったー。これでしばらくは、ミカゲホマレが生き延びられたもん。」

駒「成績悪いと容赦なく引退だからな。」

八「引退…」

駒「イベントなんかの馬車引きに就職出来りゃ御の字だが…まあほとんど食肉用行きだ。」

八「えー!?あんなに頑張ってんのに食べんの!?」

御「競馬にかぎらず、家畜の世界は努力なんて意味無いの。成績が全てだから。
そもそも四月の新馬能力テストでばんえい用に生き残れるのが4分の3くらいだからねー。」

『ほんと…』

八「……努力が報われないってのは…なんか……やだな……」

駒「やだもクソもあるか。おまえこの前、稲田先輩のスモークチキン食ったべ?あれ、産卵成績が悪いから淘汰された鶏だぞ?
今、鶏舎にいる奴らだってそうだ。どんなに頑張ろうが、ちょっと産卵率が下がったら群れごと淘汰されて、若い鶏と総入れ替えさせられるんだ。
おまえ、もう腹におさめちまってんだ。グダグダ言うな。」

八「・・・・・・・・・・・・」

駒「八軒、おまえさ、一位にこだわったかと思ったら努力を認めろって言ったり、特に目的も無く農業高校入ったりよ…
なんかあったんか?」



図星なのだろうか、いっちゃんの言葉に"馬鹿"は黙ってしまった。






ほんと、食べるってことは、生きていくってことは、こういうこと。

弱肉強食の世界とは、良く言ったものだと思う。
 
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