middle of a dream

□ばんえい競馬
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駒「…あーー、要するに、負けてこっちきたんか。くだらねー。」



黙った"馬鹿"を見て口を開いたいっちゃんの言葉がカンに障ったのか、"馬鹿"はテーブルを叩き、勢い良くその場に立ち上がった。



八「くだらねーってなんだよ!!努力が報われないしんどさがおまえにわかるかよ!!
競争社会を知らない奴はいいよな…農家に生まれたってだけでろくに勉強もせずに高校入れて…
卒業すれば実家っていう就職先が用意されてるし!」

御「!」

八「気楽で羨ましいよ!」



テーブルが再び、バンッと音を鳴らした。

いっちゃんと同時に、私も立ち上がっていたらしく、二人がこちらを向く。

アキはたぶん、おろおろしていると思う…



『さっきから黙って聞いてれば。いい?"馬鹿"、』

八「なんだよ。」

『農家が楽なわけないでしょ。あんた入学してから何見てきたの?それに、必ずしもそれが良い就職先かは限らないのよ。』

八「・・・」

『それからいっちゃん、』

駒「んだよ。」

『ずけずけとものを言いすぎ。私は負ける事も逃げる事も悪い事だとは思わない。ましてやくだらないなんて思わないから。』



すぅっと息を吸って吐き出す。



『いっちゃんがそういうこと言うとは思わなかった。』

駒「……。…こころは逃げてきたわけじゃねーだろ。」

『さぁ…どうだろうね…』



"馬鹿"はポカーンとし、いっちゃんはバツの悪そうな顔をし、私も唇をかみしめた時、アキが携帯を持ったまま立ち上がった。



御「ね、三人とも、面白い所行かない!?」

『どこ…?』

御「ね、ね、行こ!」

駒「どこだよ?」
















御「ばんえい競馬場の厩舎(きゅうしゃ)!」

















ということで、なぜか厩舎に来た。





御「おじさん久しぶり!」

叔「おうアキ!やっぱ来てたか!ミカゲホマレが走るからもしかしてと思ったんだ!」

『…こんにちわ。』

叔「おー、こころちゃんか。ちゃんと家に連絡入れてるべか?」

『…大丈夫です。』

叔「そうか?」



叔父さんは首をかしげ、それからいっちゃんを発見して声をあげた。



叔「おー!駒場んとこの一郎か!でかくなったなー!おやっさんの葬式以来かな。おっかさん元気か?」

駒「おかげ様でなんとかやってます。」

叔「エゾノー出たらすぐ家継ぐんか?」

駒「そのつもりです。」

叔「もったいねぇ!大学行けばいいっしょ!」

駒「うち、そんな金無いですよ。」



それから叔父さんはまた私に向き直って、


叔「そいやこころちゃん、愛馬の…シリウスはどうだ?」

『元気です。エゾノーの馬舎にいますよ。』

叔「そっかそっか…」


八「うわ、ごめんなさい!また考え読まれた!?…あああああ暴れてる!俺、悪い事しちゃったかも!」



アキの叔父さんと話していたら、"馬鹿"がいきなり逃げ腰で叫んだ。

見ると、ミカゲホマレが暴れている。

叔父さんは「違うよ」と言ってブラシを取り出し、ミカゲホマレをブラッシングし始めた。



八「すげーー…馬の気持ちがカンペキにわかるんスね。」

駒「さすがだぜ!」



"馬鹿"もいっちゃんも何を言い出すのかと思ったら…



叔「なに言ってんの!馬の気持ちなんてカンペキにわかる訳ないっしょ!
同じ人間同士でもわかり合えない奴がいるのに、種族の違うモンの気持ちがホントにわかる訳ねーべ!
そんなんファンタジーの世界だよ!学生さんは夢があっていいねー!」



そう言って叔父さんは一通り笑い尽くした。

気落ちしている二人と同等だとは思われたくない…。



叔「せっかく来たんだ、勉強に他の所も見てくか?馬の診療所とか。」

御「見たい!」








アキの一言で、ところ変わって診療所。

開口器をみつけて尋ねた"馬鹿"に、先生が次から次へと器具を説明して行く。



八「相川も連れてくればよかったなー。」

御「獣医志望だからこういう所、絶対喜ぶよー!」

先「お?獣医目指してる子いるの?嬉しいね!」

八「先生、獣医になる夢を叶えるのに必要なものって何ですか?」

先「ん?まぁ、学力・学費はもちろんだなぁ、体力もいるね。あとは私の持論だけど…殺れるかどうか。
どんな事でもね、叶うにしろ叶わないにしろ…夢を持つという事は、同時に現実と戦う事になるのを覚悟する事だと思うよ。」




その後、先生の所に急患が来ることになったので、私達はエゾノーに向かう為歩き出した。

途中、急死した競走馬のお葬式に出くわし、みんなで手を合わせた。



叔「俺ら馬に食わせてもらってるからよ、どの馬もみんな葬式あげてやりたいけど…経営厳しいから…
家畜とかそういうのに生まれてしまったばっかりに、情け無用の生か死かの二択人生に放り込まれる奴もいれば……
競争社会の中でろくな成績は残せなくても、愛されて最後まで大切にされる奴もいる。
人間の気持ちひとつで一生を左右されるんだもんなぁ。馬の気持ちが完璧にわかったら、俺ら気がおかしくなるかもしれん。」



そう言った叔父さんに別れを告げて。





私、きっとここにいる誰よりも気楽なんだろうな、と思う。

アキよりも、いっちゃんよりも・・・"馬鹿"よりも…





八「駒場ん家って牛飼ってんだっけ。今は母親一人できりもりしてんの?」

駒「ん?…ああ、そういう事になるな。うちの親ももう年だし、俺が継がねーと誰もやる奴いねーから。」

八「・・・・・。わり……後継ぎは気楽でいいとか言っちゃって…。・・・こころも、ごめん…」

『・・・・・』

駒「いや、俺もおまえのことよくわかってないのに言いすぎた。すまん。」



私も…


『私も…偉そうなこと言える立場じゃないのに、ごめん。』



軽く頭を下げて顔をあげると、アキがニコニコしていた。



駒「んだよアキ!」

御「いやーーこころもいっちゃんも珍しく人に謝ったなーと思って!」

『そう?私謝るよ。』

駒「おまえは謝まんねーよ!」

『謝るよ、なに言ってんの。』

駒「俺に謝ったことねぇだろ、」

『覚えてない。けど、私がいっちゃんに謝るよりいっちゃんが私に謝る出来事の方が多い気がする。』

駒「んだよ、それ。」

八「つーか、こころも怒ったりするんだな。」

『あんた、…私をなんだと思ってるわけ?』

八「いや、学校じゃツンケンしてるから。」

『してません。』



「してるだろ、ツーンて」とまだ言ってくる"馬鹿"を睨む。

いったい人をなんだと思ってるの。



八「あ!!そうだ、…御影、」

御「なに?」

八「姫将軍って、その…御影のこと?」

御「姫…?違うよ?」

八「じゃぁ…」

御「たぶん、こころだね。」

駒「あぁ、弓道部主将だったからな。」

御「そうそう、こころのあだ名みたいなものだよ。」

八「へぇ〜。」



へぇー、じゃないでしょ。

いきなり「あ!」と言ったかと思えば、



『ちょっと、それ誰に聞いたの?』

八「うわっ」

『いっちゃん?』



ぐるりと首を巡らせていっちゃんを睨む。



駒「ちげーよ。」

『じゃぁ、アキ?…なわけないよね。』



私の言葉に導かれるようにアキが首を縦に振るのを確認して、再び"馬鹿"に詰め寄る。



『…誰?』

八「ちょ、ちょっと、落ち着け。手、手、離…」



"馬鹿"が両手を小さく上げたので、私は顔をしかめ、両手で締め上げていたシャツから手を離した。



『で?』

八「西川から聞いたんだよ。」

『西川?』

八「農業科学科の、俺と同じ部屋の…」

『どうでもいいけどそれ、口にしたら蹴飛ばすから。馬で。』

八「!?・・・嫌なのか?」

『いや。』

八「まぁ、姫ってガラじゃないもんなー。」

『…蹴飛ばされたいの?』

八「いや、すみません…」



謝ってから"馬鹿"の頭が下がる。



御「こころ、八軒君に厳しいねー、」



アキが眉を下げて「あはは」と笑うと同時に、"馬鹿"の頭があがった。



八「ん?まてよ、じゃぁ呼ばないから"馬鹿"って呼ぶのやめろよ。」

『・・・・・』

八「それでいいだろ、」

『・・・お人好し?』

八「!!」

『夢探し人?』

八「!!!」

『うーんと、』

八「は・ち・け・ん!!」

『…。交換条件つきつけるとか、性格悪。』

八「どっちが!!」

御「ほら二人とも、もうやめなよー。仲良くしようよー。」






…納得いかない。
 
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