小噺(婆娑羅)

□梅雨時期の事。
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只今、安土上空は雨模様です。

外の様子を望める縁側に白い死神と前髪を縛った子供の姿がありました。



「光秀ぇ、中入ろうよぉ。濃姫様がおやつの時間だって!!」
五月蝿い子供が隣で騒ぐ。

「光秀〜、金平糖ぉ〜。」

「……。」

「金平糖ぉ〜。はーやーくー。」
金平糖は逃げませんから安心して下さい。

「……。」


「…むぅ。俺一人で戻るからな。光秀の分まで食べてやる!!」
どうぞお好きに。
というかいつも私の分も蘭丸にあげているでしょう…

蘭丸は奥へ引っ込んでいった。


「しかし…」
雨、やみませんね…。

曇天の空を見上げると雨はやむどころか酷くなってきた。


今、この屋敷に屋敷の主は居ない。


「信長公、遅いです…」

貴方が帰って来ない。

「どうしたんでしょう…」
すぐに帰るとおっしゃっていらっしゃったのに。

私もお供すれば良かった…という後悔の念が死神の脳裏をよぎる。

「はぁ…。信長公…」
会いたいのです。

そう思った時、後ろから声をかけられた。

振り向くと帰蝶がいた。

「光秀、上総之介様もこの雨で遅いのよ。きっと、心配は要らないわ。」

帰蝶…
私の従姉にして私の主の奥方…

私がどれだけ望んでも努めてみても手に届かない場所にいる。


「上総之介様はお強いわ。たとえ山賊に襲われたって上様はお倒しになられるでしょう。」
そんな事はわかっています。でも…

今の貴男には私が側にいないから…

出過ぎた事と分かってる。

私はただの臣下に過ぎないのだから…




「光秀、雨やんだぞ〜」
蘭丸が私を揺する。
「ちぇっ!!起きないでいやんの。」

頭では分かっていても眠気で体がいうことをきかない。



そうして、いつの間にか深く眠っていった。
多分、蘭丸が揺すりに来た時より時間が過ぎている。
空が赤く染まっているのが分かるくらい瞼を通して光が入ってくる。

「信長公、遅…ぃ…」
ふぅ…とため息ついて後ろにのけ反り瞼を上げた。

そこに有ったのは信長公で

「…の、ぶ長公…」
呟いた私の喜びは最高潮。
「光秀ぇ、うつけよ」
「すみません、お迎えに参りませんで。寝てしまったのです」

「(…寝ておれば…)」
「なんか言いましたか信長公?」
「…別に言ってはいないわぃ…ぬしが…」
「私が何です?」
「……//何でもないわぃ…///」

その時、死神は知らなかった。
目覚めると同時に主が唇を唇に合わせようとしていたのを驚いて飛び退いた事を。

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