小噺(婆娑羅)

□滝枕。
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もう、何回繰り返したでしょう。

「ああ、もうまた」

ここは夢の中。私の周りには人、ひと、ヒトだらけ。
その中に私は一点の緋を認識する。

貴男に手を伸ばす。すり抜ける。
「信長公、ねぇ」
貴男が私を認識する。
貴男に手を伸ばす。すり抜ける。
どうして、私を見て、また歩き出すのです?
手を伸ばす。貴男が手から離れる。また手を伸ばす。貴男が私の手からすり抜ける。
「信長公」
ねぇ。
「信長公、私を、私の名を」

呼んで。

貴男に手を伸ばす。すり抜ける。

あれから、何回繰り返しただろう。
 
鳥が鳴き、朝日の光が部屋に差し込み、朝の到来を告げる。

瞼を開ける。 貴男はいない。
わかっている。
貴男はもういない。わかっています。

「…おかしいですね」

どうしていないはずの貴男の背を追うのか。
どうして、こんなに枕が涙で濡れているのでしょうか。

――どうして。――


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