兎の姉弟。

□かつらと!
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やあ銀時、元気か!
ん?今日は西郷殿のところで仕事か?
今日はやけに気合が入っているではないか。
いつもより化粧に気合が入っているな。
まるで本物の女のようではないか!
詰め物まで用意したのか。
中々上等な詰め物のようだな。
中身はシリコンか?
ふむ……シリコンの中に更に芯まで入っているのか。
高価かったのではないか?
そんな出費をしては生活がもつまい。
はっ……まさか、本腰を入れて西郷殿のところで働くつもりか!
それはすなわち、我らの活動に参加する心づもりと思ってよいのだな!
これはよい!皆喜ぶであろう!
かつて白夜叉と呼ばれたお前が加わるとあらば、皆の士気も上がるというもの!
そうと決まれば前祝だ!
西郷殿の元へ急ごう!
何、気にするな!今日は俺のおごりだ!


と一方的にまくし立てていた桂小太郎が、玄関を突き破る勢いで繰り出された銀時の蹴りに倒れたのが3分ほど前。
今は万事屋の応接室でソファに腰掛け、ここの主である坂田銀時と、その姉である坂田朱実を交互に見比べている。
この日桂はいつも通り、銀時を上活動に勧誘しに万事屋へ訪れた。
しかしタイミングが悪いことに銀時はたまたま入浴中だったため、出勤準備をしていた朱実が桂の応対に出たのだ。
初めて朱実を目にした桂は、何故か彼女を女装した銀時だと勝手に信じたのだ。
―――銀時と朱実が並んでいても、姉弟と理解されることすら殆どないというのに。
そしてその女装の出来の良さから、銀時がかまっ娘倶楽部で本腰を入れて勤務するものと勝手に信じた。
更に、西郷率いるかまっ娘倶楽部は現、元問わず多くの攘夷志士を抱えていることから、銀時が再度攘夷の道に戻ってきたと信じたのだ。
何故か。

風呂を上がった銀時は、玄関先の大きな話し声にすぐ気付いた。
それが桂のものであることも、朱実が対応しているだろうことも。
自称堅物キャラの桂のことだ。
朱実を見て、女を垂らし込んで堕落しているとでも説教されては適わない。
風呂上りで湯気の上る体で玄関に行ってみると、予想通り、そこには桂と朱実がいた。
上機嫌で朱実の胸を鷲掴みにしている桂と、完全にフリーズしている朱実が。
その時の朱実の心中はいかなるものだったろう。

目の前に現れた男は、どうも銀時の知人らしい。とても親しげな様子だ。
いきなり乳房を掴まれ、反射的に悲鳴を上げそうになるが「銀時の知人」というフレーズで、思いとどまる。
もし悲鳴を上げて誰かが警察でも呼べば、銀時の友人が痴漢扱いされてしまう。
大声を上げるわけにも、手を上げるわけにもいかない。
そうこうしている間にかまっ娘倶楽部へ連れて行かれそうになる。
その瞬間、強い風が吹いた。
とっさにつむった目を開けると、体からほこほこと湯気を立てた半裸の銀時がおり、その足元には先ほどの長髪の男が、倒れていた。


三者三様の思いで互いに顔を見合わせるが、誰も口を開こうとしない。
ここはやはり年長者として、朱実が場をとりなすべきだろうか。
銀時はまだ怒ったような顔をしているし、桂さんとやらに至っては、視線が合っても慌てて逸らしてしまう。
友人とその姉を見間違え、無遠慮に体を触ったのだ。それは気まずいだろう。
しかし、喧嘩の後の仲直りは当人達の問題。
当人達で解決するべき。
朱実はそっと立ち上がった。
「お茶、淹れてくるわね。桂さんもお茶でいいかしら。」
「え!あ、ああ、手間を掛けさせて申し訳ない……」
銀時の、桂を見る目が益々細くなる。
お茶を持った朱実が戻っても、銀時と桂は無言のままだった。
―――ひょっとして私がいたら、話し難いのかしら。
朱実は静かに湯飲みを置くと、2人に言った。
「……それじゃあ、私はそろそろお仕事に行くわね。桂さんも、ごゆっくり。」

そっと玄関が開閉する音が、静まり返った万事屋に響く。
桂は湯飲みを凝視し、銀時はそんな桂を冷えた目で見つめていた。
「銀時よ、すまなかった。どうも勘違いをしていたようだ。」
「まあ、お前のそういうボケは今に始まったことじゃねえから。気にすんな。」
素直に謝る桂に、銀時ももう怒ってはいなかった。
「どーせ用事らしい用はねえんだろ?それ飲んだらとっとと帰れよ。」
「うむ。承知した。」
更に素直なことに、桂はそっと湯飲みに手を伸ばし、大切そうに両手で持った。
「銀時よ。」
「あ?」
「姉弟とは良いものだな。」
「お、おう……」
桂に兄弟がいるという話は今まで聞いたことがない。
彼の目に、銀時と朱実はどのように映っているのだろうか。
「時に銀時よ。」
「ん?」
「兄が欲しくは「いらん!帰れっ!!!」」


銀時が、桂の性癖を知るのはもう少し先のことになる。
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