兎の姉弟。

□ひじかたと!
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昨今の健康、嫌煙ブームの流れか、かぶき町にも申し訳程度の喫煙所があった。
鬼の副長と呼ばれるその人も、仕事の小休憩を取るべくコンビニの脇にあるガラス張りの小部屋へ入った。
ガラス張りと言っても、中は白く煙っていてよく見えないのだが。

愛するマヨネーズ型のライターで、いつもの煙草に火を点ける。
一息溜めて。
白い煙をゆっくり吐き出すと、隣の気配に目を向けた。
そこには見慣れた顔があった―――ように見えたが、全くの人違いだった。
知っている方はひじかたと同じ目線の高さだが、隣の人物の目線の高さは肩よりやや低い。身体の作りも女性らしい、ほっそりしたものだ。
髪の色はよく似た銀色をしていたが、例の男のような野放図ではなく、緩やかなウエーブを描いたロングヘアーだった。
ついジロジロと見てしまったのが伝わったのか、隣の女も伏し目がちだった視線を上げ、土方の顔を見てきた。
ここはかぶき町。お互い不要なトラブルを避けるためにも、知らない者同士目が合えば素早くそらすが通例。
しかし女は土方を見てにっこり笑った。
ここで見知らぬ男を見て笑うという事は、商売女の類か。話しかけられると面倒だ。
いい加減な推理をしつつ、土方は目を伏せるように黙礼し、短くなった煙草を消して狭い部屋を後にした。

喫煙所から出た途端、今度は本当に見知った顔がいた。
「おやおや〜?サボりですかぁ副長さん?」
クルクルと好きな方を向いた髪を揺らしながら、万事屋の所長がコンビニ袋片手に近づいてくる。
うるせえと軽くかわし、横をすり抜ける。もっと面倒臭く絡んでくるかと思ったが。
「俺は今日忙しいから、マヨラ王子に構ってる暇ねーの。」
後ろ手に手を振りながら喫煙室へ消えていった。やたらと機嫌が良さそうで気持ち悪い。
―――あいつ煙草吸ったっけ?
思ったが、その男と関わって碌な事になった試しがないのを思い出し、再び仕事へ戻っていった。
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