兎の姉弟。

□K
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『銀時!ここは俺が引き付ける!貴様はそのゴリラと一旦引け!』
『待てよ!早まるなヅラ!』
『行け!銀時!』
『…………行こう、万事屋!』
『ヅラァ!!』
近藤(ゴリラ)が銀時(猫)を抱え、路地裏へ逃げ込む。
「黒猫は不吉の象徴だぞ!逃がすな!」
「待ってよ、よっちゃん!」
かぶき町で時々見かける悪童共が、桂(猫)の後を騒々しく追って行った。
『……何だったんだあいつら……』
少年達の声が完全に聞こえなくなってから、銀時(猫)はぼそりと呟いた。
『子供は元気な方が良いとは思うが……まるで嵐だな……』
近藤(ゴリラ)も呆然とした様子で呟く。


ある日猫の祟りで猫の姿になってしまった銀時は、同じ境遇の桂と出会った。
そこへ少し違う境遇でゴリラの姿と化した近藤と鉢合わせ、同行することになる。
3匹は食料調達の為、かぶき町のボス猫であるホウイチに教えられた通り、
好奇心の強そうな子供達に愛想を振りまいていたのだが、子供達の1人が黒猫は不吉の象徴なのだと言い出した。
艶やかな毛並みの真っ黒な猫―――桂を指差して。
その流れで子供達に追い回された3匹だったが、子供達の標的である桂を犠牲にすることによって、
銀時と近藤は逃げ延びることができたのだ。
『ヅラはまあ……あの程度で捕まるタマじゃねえだろ……』
『…………そうだな……』
普段の桂の逃げ足を知る2匹は、実はあまり心配していないのだった。


銀時と近藤が見上げた空の下、桂はまだ追われていた。
『ちょっ……もう疲れた!いい加減疲れた!』
必死に叫ぶも、子供達には猫の鳴き声にしか聞こえない。
しかし子供達の体力も限界が近いのだろう、桂を追う速度が目に見えて落ちている。
『……助かった……!?』
そう思った矢先、桂の頬を何かが掠めた。
地面に転がったそれは。
『石!?』
ちらりと振り返ると、追いつくことを諦めた子供達が石を投げ始めていた。
彼らは遊びのつもりなのだろう。
ほんの小さい小石を選んで投げているようだった。
『童共ォ!流石にそれはダメじゃないのか!親はドコだコラァ!!』
その時、突如反転すうる世界。
飛んでくる石にばかり気を取られていた桂は、足元に転がっていた小石には気付かなかった。
『―――え?』
全力で走っていた速度のまま、つまづき、全力で転がる。
ズシャア!
猫が転んだとは思えない、派手な音がして悪童共も投石を止めて黙り込んだ。
「……行こうぜ。」
「……そうだね。」
来た時とは真逆に、大人しく去っていく子供達の背中を最後に、桂の意識はぷつりと、途切れた。
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