兎の姉弟。

□女体化祭。
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そろそろ日も長くなり始めたか、というある日の午後。
万事屋主人の姉である坂田朱実は、万事屋従業員である神楽と留守番をしていた。
……はずだった。
両手で持っていた湯呑から顔を上げると、神楽がいないのだ。
行儀の悪いことだが、先ほどまで来客用のソファに寝転がってスポーツ新聞を読んでいたのに。
代わりにそこには、武将と思しき男が転がっていた。
ソファが酷く窮屈そうである。
否、実際に窮屈だったのだろう、彼は身体を起こして座り直した。
「最近有名人がバタバタ死んでいくアルな。何か良からぬ事の予兆アルか。」
癖のある話し方。そして裂けつつも辛うじて身体に張り付いている、赤いチャイナ服。
「……神楽ちゃん……?」
恐る恐る、呼んでみる。
答えは是。そして一つの問いかけ。
「何アルか?―――アレ?銀ちゃん、いつの間に帰ってたアルか?朱実は?」
「銀ちゃん?何の話?神楽ちゃん。」
銀ちゃん、という呼びかけは確かに朱実の方を向いて発せられたが、朱実の後ろには誰もいない。
その時一つの予感が脳裏をよぎり、朱実は自分の手を見た。
―――明らかに、いつもより節くれだっている。
髪も短く、肩に付かない程度の長さになっているようだ。
慌てて洗面所に向かう。
しかし、移動する間にも予感が現実味を帯びていく。
交互に差し出す左右の足が逞しい。着物の裾も足りていない。
辿りついた洗面所。鏡の中にいたのは予想通り。
「……何コレ。」
普段の朱実がしている薄化粧を施した銀時が、そこにいた。
「銀ちゃーん、どうしたアルか?」
いかにも面倒くさそうな様子で、精悍な男が洗面所に入ってきた。
朱実は無言で鏡を指差す。男は大人しくそれを覗き込んだ。
「ん?……何コレ。」
「あなた……神楽ちゃんよね?」
「……アレ?私は神楽……?……私は誰だっけ…………?」
「しっかりして!お願いだから神楽ちゃんであって!」
朱実は、神楽とは似ても似つかぬ大男の両肩を掴んで強く揺さぶった。
「痛い痛い!さっきから銀ちゃん変ヨ!いつの間に帰ってきたか知らないけど、化粧したり喋り方も何かキモイ。」
「違うの!私よ!朱実よ!」
「朱実!?」
男―――どうやら神楽で確定らしい―――はキョトンと朱実を見つめ、仕草だけは可愛らしく小首をかしげた。
「神楽ちゃんも武将みたいになっちゃってるし……何か起こってるのかしら……」
「街中で起こってるなら、テレビでやるハズネ。」
神楽は大きな身体になっても足音軽く居間に戻り、テレビのチャンネルを回し始めた。
朱実も神楽に倣って居間へ戻る。
すると突然ワイドショーの画面が切り替わり、白いローブの集団が映し出された。
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