兎の姉弟。

□女体化祭。
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「メーワクな奴らアルな。」
どうやらどこぞの宗教団体である、白ローブ達がかぶき町全体で男女の性別を入れ替えたらしい。
一連のテロ声明が終わると、テレビ番組はいつもの気楽なワイドショーに戻った。
「男女の役割を思い出せなんて、余計なお世話だわ!」
言いながら、朱実は神楽に背を向けた。
「朱実、どっか行くアルか?」
「ええ。出かけたいんだけど、その前にまずお化粧落とさないとね。」
にっこり笑いかけるが、神楽の表情が浮かない。
多感な年頃にこのようなことがあったのだ。不安になるのも仕方の無いことだろう。
安心させようと朱実は神楽に歩み寄り、その頭を撫でてやる。
「大丈夫、すぐに元に戻るわよ。」
微笑みかけるも、神楽の顔は引き攣るばかり。
あきらめた朱実は、洗面所で顔を洗った。
鏡の中の自分は、銀時にそっくりだった。
本物の銀時よりも少し老けており、髪も少し長いがパッと見では判らないかもしれない。
せっかくなので、普段の銀時がしない表情を色々試してみる。
きりっと引き締めた顔は中々男前だと思うのだが、非常に疲れる。
銀時がいつもヘラヘラしている理由を、垣間見た気分だ。
拗ねたように頬を膨らませてみるも、これは我ながら不気味なものだった。
思わず苦笑し、朱実がいつもしているように、薄い微笑を浮かべてみる。
瞬間、先ほどから神楽の様子がおかしい原因に気が付いた。
あれは自分の状況が不安だったわけではなく―――
「……朱実、笑うの禁止ネ。」
神楽の顔が半分だけ、洗面所の入り口から覗いていた。
「ええ……その方が良さそうね。」
溜息混じりに承諾する。
それほど、銀時そっくりの自分の笑顔は気味の悪いものだったのだ。
正に「いやらしい」とでも言うのか。
あれは神楽でなくても避けようとするだろう。
むしろ神楽でなければ、通報されるかもしれない。
「朱実のためにも、周りのためにも、その顔の内はキリッとしておくことを勧めるアル。」
「努力します……そうだ神楽ちゃん。」
朱実は思い出したように顔を上げた。
「ちょっと銀ちゃんの服、借りるわよ。この着物じゃ丈が合わなくて。」
男の身体になってしまったことにより、朱実の着物では脛が見えてしまっている。
かといっておはしょりを下ろせば、今度は引きずることになりそうだ。
「銀ちゃんの着物なら、押入れのタンスに何着か入ってるネ。」
「ありがと。着替えたら、神楽ちゃんの着物を買ってくるわね。」
言われて、神楽は己の巨体を見下ろした。
急に巨大化したも同然のため、袖や裾は破けてしまっている。
胴回りのみようやく布が張り付いているような状態で、大きく動けば今にも破けてしまいそうだ。
「!」
神楽は何事かひらめいた様子で、朱実を押しのけて鏡の前に立った。
そして、ゆっくりと深呼吸する。
「ほぁぁぁぁぁぁ……」
その様を、朱実は息を飲んで見守る。
「……ほあたぁ!!!」
ビリィ!
神楽がカッと目を見開き、全身に力を込めると同時。
辛うじて残っていた神楽の衣類は、無残な端切れと化した。
「やったアル!ケンシロウみたいネ!」
キャッホウと無邪気にはしゃぐ歴戦の猛者の姿に、朱実は眩暈を覚えた。
「神楽ちゃんも、その姿の間は可愛いことしない方がいいかもよ?」
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