「イオン様、あの……あのっ」
いつも、彼女は僕を見てイオンと呼ぶ。
確かに僕は、導師イオンのレプリカで、“イオン”だ。
導師イオンとして作られたのだから、その名で呼ばれることは、当たり前のこと。
なのに、どうして彼女がその名を呼ぶとこんなに寂しくなるのだろう。
僕と彼女を近づけない様に、まして2人きりになんてさせない様に、ヴァンやモース達が細心に僕の行動を制限していた。
けれど、彼女は僅かな時間を見つけ出してここにいる。
付き人として、常に横に控えていたアニスも今はいない。他の導師守護役も。
被験者の部屋であり、僕の部屋になったこの場所に、彼女と2人きり。
「どうしてアニスを導師守護役にして、アリエッタを辞めさせた、ですか?」
理由も知らずいきなり解任させられた彼女は、戸惑いと悲しみに満ちた瞳で僕を見つめる。
瞳が赤く潤んでいるのは、知らせを受けてからこの3日間、泣き腫らしたのだろう。
彼女が身に纏っている服は、もう導師守護役のものではなく、ヴァンが新しく支給した六神将用のもの。
「どうして……アリエッタはダメ、ですか?」
それは、僕に過去がないから。
言葉にしてしまえば、楽になれるだろうことは分かっていたけれど……。
「イオン様」
彼女にだけは、その名前で呼んで欲しくない。
そう思う、この気持ちは何だろう。
苦しくて、苦しくて、辛い。
彼女の求めるイオンはこの世にいない。
彼女を残して、消えてしまった。全てを僕に押しつけて。
「…どうして、イオン様が泣くのですか?」
貴女が僕を見てくれないからですよ。
そう言ったところで、彼女が真実を知る日はこない。
被験者がこの世にいないと知ったのなら、彼女は僕の目の前からいなくなってしまうだろう。
悲しみに満ちたその瞳でしか僕を見てくれなくても。
僕を通じて、被験者のことしか見ていなくても、彼女がここにいてくれるのなら僕はイオンを演じなければならない。
「イオン様、泣かないでっ」
そう言った彼女も泣いている。
その涙だけは僕の為に流してくれた涙。
被験者のイオンは、こんな彼女にどう接していたのだろう。
きっと被験者は、触れることも、話すことも出来ない僕の今の状況をみて、嘲笑っているんだ。
1度でいいから、僕を見て欲しかった。
イオ→アリエッタ。
1度やってみたかったCP。
シンアリやオリイオアリも好きです。