伸ばした手の先。
□ピースサインの誕生日。
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驚いてるわけでもない。蔑んでるわけでもない。かと言って混乱してるようにも見えなかった。
近寄って来た雅紀に引っ張られて、頬に渾身の一発。
『せっかく生まれて来たのに、何で死のうとするんだよ!』
叫ばれて、泣きながら胸倉を掴まれた。
それから何度か『死にたい』って考えたけど、その度にあいつが現れた。
気がついたら雅紀はいつも近くにいて、そうか。これが友達っていうのかな。そういえば、俺が名前で呼ぶのもあいつだけだ。なんて、あいつの笑顔見ながらぼんやり考えてた。
その笑顔が、今血に濡れている。
「…ま、まさ…」
舌が巧く回らない。
何があった?
どうしてこんな事になった?
空から落ちる滴が俺と雅紀を濡らす。赤い液体が辺りに広がって、それを見るギャラリーの叫び声が交差点に木霊する。持ち主を無くした傘が、くるくると回りながら動いていた。
どうして。
どうして。
どうして。
頭の中で同じ問い掛けばかりが回る。
今日は俺の誕生日で、なのに雨で、俺はいつものようにこの交差点に立っていて。
『今、ここで死んだらどうなるだろう。
誕生日に死ぬって、いいよな。』
そんなことを考えていた。
それで?
何があった?
後ろから、誰かに押されて、道路に飛び出した。
俺死ぬって、思ったらまた更に誰かに押されて…
「雅紀…」
彼が、助けてくれた。
開いた鞄。
回る傘。
雨に濡れた制服。
血に濡れた身体。
ズボンを染みてくる冷たい感触に、ゆっくりと現実に引き戻された。
救急車のサイレンが遠くで聞こえる。髪を伝って落ちて来る滴さえ、俺にとっては別世界のようだった。
ただ、目の前に彼が倒れている事が現実だった。
-パシャッ―
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