伸ばした手の先。

□ピースサインの誕生日。
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「せっかく同じ名前なんだからさ、爺さんになっても友達でいてぇじゃん!」

「は…それだけ?」


下らない。


溜め息を吐いて再び前に向き直る。
後ろからは雅紀の抗議。


「うるせーよ。」


片手を上げひらひらと振り、その声を適当に受け流しながら残りの階段を降りて行く。


「柾槻!!」


上から声をかけられてまだ何かあるのかと顔を上げる。雅紀はいつものようにニッと笑って、ピースサイン。
子供のような笑顔を向ける雅紀に苦笑を返す。


「また明日な!」

「知らねぇよ。」


手を上げて笑うのは何回目か。
あいつに笑顔なんて向けやしねぇけど。













嫌いじゃなかった。



人と付き合うのがあんまり好きじゃなくて、壁を作って過ごしていた。それは毎日を送るための必須事項に加えられていて、俺にとっては何の苦にもならなかった。いつ、どこにいても俺は一人だ。何年もそうして暮らしていればそれは『普通』に変わる。


『なぁ、お前寂しくねぇの?』


入学初日の第一声。
肘をついて外を眺めていた俺に降ってきた雅紀の言葉。あまりに唐突で、呆然とした。

同時に、少し嬉しかったのを覚えてる。
学校の奴と、会話したのは久しぶりだった。


『え。何お前柾槻っていうの?
すっげぇ!俺も雅紀っていうんだ!やっべぇ、超偶然じゃん!』


同じ名前で出席番号も前後していた。出席をとる度に後ろを向いて俺ににやりと笑いかける。小さくピースサイン。
俺はそれが恥ずかしくて、でも少し嬉しくて。いつも明後日の方へ視線を逸らす。



最初に言われたのはいつだったか。そうだ。確か俺が屋上から下を眺めていた時。


『何やってんの?』


後ろから声をかけられて、億劫そうに振り返って。

あの時の雅紀の顔。









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