☆薄桜鬼☆

□From now on
1ページ/2ページ

「どういうこと?」

目の前の彼は信じられないという顔で私を見ている。

「だから、別れよう。」

「なんで?」

「なんでも何も…私、結婚することにしたの。」

私は出来るだけ冷たい言い方をする。

「結婚って…僕が卒業するまで待ってくれるって。」

「そのつもりだったんだけど、私も年だし。何年も待てない。」

彼の顔が歪む。泣きそうな彼の顔を見て「違う」と言いそうになるけれど、それは出来ない。

私が先生であなたが生徒であるから。

もうすぐ卒業して大学に進むあなたにこの重荷は背負わせてはいけない。

「さようなら。」

私は彼の顔を見ないようにして伝票を持って席を立つ。
彼は項垂れたまま動かない。
これでいい。

大好きだからこそ離れる私を許して。
ごめんね、沖田くん。



「いやぁ、まさか千華ちゃんが辞めちゃうとはな。」

急に辞めることになった私のために永倉先生が送別会を開いてくれた。

「すみません、急に辞めることになって。」

「親の介護のためなら仕方ないって。でも、寂しくなるな。」

「そういってもらえると嬉しいです。」

「まぁ、また落ち着いて働きたくなったら戻ってこいよ!」

ガハハと笑いながらビールを飲む永倉先生に少し救われる。

「お前、今日はビールじゃないのか?」

原田先生の問いかけにどきっとする。

「あっ、えぇ。ちょっと昨日も飲みすぎたから胃の調子が悪くて。」

「そうか。まぁ、調子が悪いときは無理しない方がいいしな。」

頭に手を置きぽんぽんとされると罪悪感でいっぱいになる。
私は優しいこの人たちまで騙している。

そう、私は禁断の恋に堕ち、犯してはならない罪を犯してしまった。

だから、この学校を去る。

「初霜君が辞めるのは実に惜しい。総司も懐いていたしな。」

「そう言ってもらえると嬉しいです。」

近藤校長の言葉に私はうまく笑って答えているだろうか。

「総司は寂しがり屋だからな。姉貴が出来たみたいで嬉しかったんさじゃないか。」

土方先生の言葉に胸が痛くなる。
ごめんなさい、私はその期待を裏切りました。

どこから変わってしまったのか。

もしかしたら、出会ったときからこうなることが決まっていたのかもしれない。




「おめでとうございます。元気な男の子ですよ。」

学校を去ってからの私は実家に帰らず誰も知らないところで子どもを産んだ。
彼と同じ翡翠色の目を持つ男の子。

「生まれたきてくれてありがとう。」

そして、父のいない子にしてしまってごめんね。

愛しい我が子を抱きしめる。
お父さんのいない分、私が頑張って育てるから。

子どもも私も問題なく退院の日を迎え無事に家に帰ってきた。
マンションのエントランスに入ると、オートロックの前に信じられない人が立っていた。
彼はこちらをみて笑顔になるも、抱えている赤ちゃんをみて顔を歪める。

「ねぇ、どういうこと?」

鋭い目で私を見る彼は少し大人になっているように思えた。

「どうって…」

「もう、結婚して子どもが生まれたの?」

近付いてくる彼から逃げることが出来ない。

「もう、他の男のものになったの?」

彼から逃れようと後ろへ後ずさるも壁際に追い詰められる。
そのとき、寝ていた赤ちゃんが目を開けた。

「その目の色は…」

言葉をなくす彼をみてなんといえばいいかわからなくなる。

「そういうことだったんだ。」

1人納得したように呟く彼。

「なんで言ってくれなかったの?」

「な、なにを?」

「子どものこと。」

沖田君の子どもじゃないと否定しなければいけないのに、子どもの前でそんなことを言うのを躊躇ってしまう。

「あの日の夜、土方さんたちと飲んだでしょ?終わった後、様子がおかしいって僕に連絡があったんだ。」

下を向く私に彼の表情はわからない。

「僕もなんであんなこと言われたか気になったし、部屋にいったらもう引き払われていて。すごく探したんだよ。」

「…そう。」

「結婚話なんかぶち壊してやろうと思って千華の実家に行ったのに知らないって言われるし。」

「ぶち壊そうって…」

「だって仕方ないじゃない?僕は千華が欲しかったんだ。例え全てを失っても。」

そういって私の頬に手を添える。顔を見上げると彼の目はとても優しかった。

「ねぇ、僕は千華を失いたくない。まだ間に合うよね?」

彼の顔を見るとノーとは言えなくて。涙が溢れてくる。

「私…年上だし。」

「うん。」

「勝手に総司をパパにしちゃったし。」

「うん。」

「一緒にいることを望んじゃダメだと思う。」

一瞬、彼の手がピクッと反応する。

「この子を抱いていい?」

総司の言葉に頷き、私の腕の中で寝ていた赤ちゃんを総司に渡す。

「小ちゃいなぁ。」

赤ちゃんをみる彼の目はいつもの彼と違っていた。
それはまるで父親のよう。

「僕は千華とこの子を守るためならなんだってする。どんなことでも受け止める。だから、逃げないで。」

逃がさないけどねと笑った彼はいつものいたずら好きな顔。

「乗り越えなきゃいけないことはあるかもしれないけど、僕には大したことじゃないよ。素直になってよ。千華はどうしたいの?」

私はどうしたいか。
言っても許される?

「…総司と…この子を育てたい…っ」

言葉にしたら抑えていた気持ちが一気に溢れてくる。

「総司と一緒にいたい。」

ボロボロと涙を流す。
きっと見せられない顔をしている。

「泣き虫なママだね。」

そういって笑いながら彼は私の頭を撫でる。

「まずは部屋に入ろうか。」

手に持っていた荷物をひょいと取り上げられる。

「いっぱい話してよ。今までのこと。」

こくんと頷く。

「そしていっぱい話そう。」






ーこれからのことをー



あとがき→
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ