☆薄桜鬼☆

□the beginning of love
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「雪村。」

その一言が私を奈落の底に突き落とした。



合コンで知り合った一君と意気投合して飲みに行くようになった。何回目かで体の関係を持った。
そのままさよならかと思ったら意外にまだ続いていて。
体の関係を持たない日もあったし、付き合っているような雰囲気もあった。
私だっていいなーと思う人としか関係は持たないし、どっちつかずな関係にもやもやしていた。
そんな矢先、情事が終わって先に寝てしまった彼の寝言。
雪村は確か彼の後輩で女の子。前に一緒に仕事をしているという話をしていた。

疑惑は確信に変わる。

「始発で帰ろう。」

幸い始発が出るまであと1時間ほど。
シャワーを浴びて着替えをする。冷蔵庫からビールを出してやけ酒だ。

「あー、無駄な時間を過ごした。」

最初に確認しなかったのが行けないのも事実。
けど、そんな男だと思わなかったんだよ。

「今までありがとうございました。」

そう言って私は部屋をあとにした。


週明けに会社に行くと合コンの幹事だった千が声をかけてきた。

「斎藤さんから千華に連絡がつかないって連絡がきたんだけど、どうかしたの?」

心配そうな顔の千に申し訳なさを感じつつ「うん、もう会いたくなくなって…」と目を伏せて返事する。

「斎藤さんが何かした?ことによっては問いただすけど。」

私の様子を見て勇ましく言っている千。

「ここじゃなんだから今日の仕事終わりにご飯に行かない?」

こそっというと千もただ事ではないと察してくれてわかったと小さく返事をしてくれた。

『次はいつ会える?』

私が帰った後にきたメール。
返事はしなかった。
縁がなかっただけ。理由を言えば千も納得してくれるだろう。

終業後、千と一緒によく行くイタリアンレストランで夕食をとりながら詳細を話す。
相手の名前は一応伏せておいた。

「斎藤さんが…信じられない。」

話を聞いて千はパスタを食べるフォークの手が止まってしまった。
斎藤さんはやはり真面目に見えているらしい。

「斎藤さんがどういう人だとしてもいいんだけど、私は実りのない恋はもうしたくないからさ。二股とか面倒だし。」

好きになりかけていたからとは言えずビールを飲み込む。

「幹事をしてくれた千には本当に申し訳ないと思うんだけど、千からもうまく断ってほしいの。私も明後日から海外出張だし、会うこともないとは思うんだけどさ。」

千はお似合いだと思ったのになと残念そうにいいながら私の提案にうなづいてくれた。
そのあとは千とガールズトークに花を咲かせてお開きとなった。

斎藤さんの連絡先も消去して着信拒否もした。長期の海外出張に出たため斎藤さんのさの字も思い出さなくなった。
…嘘、たまにもったいないことしたなとは思う。
胸が痛むのはきっと彼に惹かれていたから。

帰国日。
乗っていた便が点検やら乗客がこないやらで2時間以上遅れて到着した。

「もう終電ないじゃん。」

時間は1時を回る少し前。

「あー、ホテル取れるかな。」

重い荷物を引きずりながら携帯で宿を探す。
そのとき、荷物を引く腕を握られた。

「きゃっ、なに?」

驚いて振り向くとそこには一君がいた。

「捕まえた。」

少し怒り気味の一君。

「えっと…どうしてここに?」

「鈴鹿に今日帰って来ると聞いた。それで待っていた。」

「待っていたってこんな時間まで?なんで?」

頭の中はハテナでいっぱいだ。

「あんたと連絡が取れなくなって鈴鹿を問いただした。そしたらあんたが何か勘違いをしていることに気付きいてもたってもいられず…」

「勘違い?」

「俺は二股などしていない。」

真面目な顔で言い切る彼を見てあーっと思い出す。

「いいよ、今更だし。」

「お前は遊びだったというのか。」

「遊びだったのはそっちでしょ!他の女の名前を呼んだくせに!!」

その言葉にカチンときて大きな声を出してしまった。

「他の女…?」

「とぼけないでよ、雪村って言った!」

雪村という名前を出した時に彼はハッとした顔をする。

「ほら、思い当たるんじゃない。」

「いや、雪村というのは確かに女だが後輩で。そういうことか。」

「じゃあ、私は忙しいから。」

手を振りほどこうとするも力強く握られていて離せない。

「雪村とはなにもない。あの時期は雪村と一緒に仕事をしていてちょうど忙しかったんだ。」

「だから寝言で名前を言ったって?もうちょっとマシな嘘をつけば?」

「嘘も何も本当だ。雪村は彼氏がいる。大体、俺はあんたを好いている。」

さらっと今重大なことを言われた気がする。

「…今なんて?」

「だ、だから、雪村は彼氏がいると。」

「そのあと。」

「そのあと…」

顔がみるみるうちに赤くなっていく彼を見て意地悪したくなる。

「聞き間違いなんだ。もういいよ。」

「ちがっ…」

彼ははぁっと息を深く吐いたあと意を決したように私の目を見る。

「俺はあんたを好いている。言わずとも伝わっていると思っていた。」

彼の言葉に嘘は見えない。

「そんなこと一言も言ってなかった。」

「俺は口下手だから言わなくても行動で伝わっていると思っていた。好きでもない女に欲情しない。」

欲情って…真面目に言われるとこっちが恥ずかしくなってくる。

「それなのに急に連絡は取れなくなるし、遊ばれていたのかと悩んだのは俺の方だ。」

「私は本気で…」

「分かっている。鈴鹿にもちゃんと言わなかったのかと怒られた。」

次の瞬間には彼の腕の中にいた。

「あんたを好いている。俺と付き合ってはくれないか。」

久しぶりの彼の匂い。
彼の声。
忘れようとしていたのに幸せだった時間がこみ上げてくる。

「浮気したら許さないから。夢の中でも禁止。」

彼の胸にも顔をうずめて呟く。

「承知した。」

そういうと彼の唇が私の唇を塞いだ。

「そういえばあんたから聞いていない。あんたは、その…」

しどろもどろするその姿が可愛く見える。

「私はもちろん」










ー最初から好きだったよー

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