☆薄桜鬼☆

□TGIF
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金曜日の夜7時。
ノー残業デーの今日は今頃合コンのはずだった。

「あー、なんでこんなの見落としたんだろう。」

後輩のミスが発覚したのが終業10分後。
化粧を直していていた私は呼び戻しをくらい、土方部長に怒られる。
その間にミスした張本人は帰りやがった。
月曜日に必要な資料だからと今やり直している最中。
チームリーダーとして任されたこの仕事。
後輩の作成した資料チェックのときにミスを見逃した私の責任ではあるんだけれど、金曜日にこの仕打ちってない。

「今日の合コンは商社だったのに…このまま行き遅れ決定だわ。」

30を迎えるにあたって周りはどんどん結婚をしだした。
彼氏がいつ以来いないんだっていう私もさすがに焦る。今日の合コンにかけていたのに…

「自分の行き先の前に資料を早く仕上げろ。」

後ろから低い声が聞こえてきてびくっとする。

「土方部長…」

私の部署のトップが後ろで仁王立ちをしていた。

「まだいらっしゃったんですか。」

「部下のミスは俺の責任でもあるからな。土日はゆっくりしたいし、確認は今日しておきたいんだよ。」

「すみません。」

「謝るならさっさとしろ。」

眉間にシワを寄せて私の隣の席に座る。隣に座るといい香りがしてドキッとする。
部長といっても異例の昇進らしく、30半ばでこの職についたらしい。
芸能界にいてもおかしくないくらい顔の整った部長には社内にファンクラブがあり、知りたくなくても情報が回ってくる。
この前はとうとう彼女が出来たらしいとファンクラブの会員と見られる女の子たちがお葬式のような顔をしていた。

「土方部長の彼女さんに申し訳ないです。こんな時間まですみません。」

きっと今日は彼女とデートだったんだろうなと思いながらキーボードを叩く。
私にも彼氏をくれ。

「あ?彼女ってなんのことだ?とりあえず早く帰って寝たいから終わらせてくれ。」

またまたしらばくれちゃってと思いながら仕事に集中する。
部長は隣で携帯をいじっているから彼女に連絡でもしているのだろう。
そのうち部長の動向など気にならないくらい集中した結果、なんとか出来上がった。

「よし、部長。出来ました!」

ぱっと横を向くと机に突っ伏して寝ている部長。
男の人の寝顔なんて久々でドキドキする。

「寝ていてもイケメンだわ。睫毛長っ。」

間近で見るとますますかっこいい。

「こりゃ、ファンクラブがあるのも納得。」

うんうんと頷いてしまう。

「お前は何を一人で言っているんだ。」

突然部長が頭を上げたので椅子ごと後ろに飛び跳ねる。

「お、起きていたんですか。」

「ちょっと目をつぶって伏せっていただけだ。」

「ということは、全部聞かれて…」

その事実に顔が赤くなっていくのがわかる。

「褒めていただいてどうも。」

ニヤッと笑う顔もかっこいい…じゃなくて穴があったら入りたい。

「あの、終わったので確認お願いします!」

そういって私は椅子から立ち上がる。
すると手を引っ張られてしまいバランスを崩し部長に倒れこんでしまった。

「す、すみません。」

離れようとするも何故か腕の中に収まっていて離れられない。

「あ、あの、部長?」

この状況にわけが分からずオロオロする。

「今日は何故残業させたと思う?」

「それは、ミスがあったからで…」

質問とこの状況がなんの関係があるのだろう。

「あの程度のミスなんてわざわざお前を呼び戻さなくてもどうにかなった。」

「えぇー!?」

ひどすぎる。

「合コンで知らない男を漁るなら俺にしとけよ。」

「なっ、なんで合コンのことを…」

知っているかの前に俺にしとけって言った?

「なんでもない。」

部長はなんでもなかったかのように席を立つ。そして私の作成した資料をチェックする。

「よし、問題ないな。」

「…はい。」

気のせいだったのかな?
うん、きっとそうだ。

「飯でも食ってくか?合コンに行くって言うなら止めないが。」

時計を見ると合コンには間に合いそうにない時間だ。何より断ってしまった。

「どうする?」

いつの間にかコートを羽織っている部長に問われる。

「ご飯食べに行きます。」

「じゃあ、早く来い。」

そういうと部長は颯爽と歩き出す。

「待ってください。」

私も急いで鞄とコートを持って部長を追いかけたのだった。
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