華ヤカ哉、我ガ一族
□過チノ代償
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「…もうおそばにはいられません。」
はるの言葉を聞いて二人の道はここから違えるのだと悟った。
いや、私がすべて悪いのだ。
当主になるために愛する女を捨てて好きにもなれない女を相手に選んだのだから。
あいつは私の背中を押してくれた。
だから振り返ってはいけないのだ。
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それは一本の電話から始まった。
「正兄さん、今日やす田に来てくれない?大きな宴会が抜けちゃって困ってるんだよー。」
「はぁ?私は忙しいのだが。」
「いいじゃん、紀夫さんもくるって。お願い〜。」
「気色悪い声をだすな!腕をからめるな!!わかった、わかったから。」
「やったー。じゃあ、19時によろしく〜。」
がちゃんと受話器を置き、深いため息をつく。
「なぜ、私が。19時といったな。もう18時ではないか!くそ、もっと早く連絡してこい。」
正は慌てて急ぎの案件に目を通し、銀行をあとにするのだった。
やす田についたのは19時ちょっとすぎだった。
「なんとか間に合ったか。紀夫はもう来ているのか?」
がらっとふすまを開けるとそこには紀夫の姿はなく芸者が一人座っていた。
「・・・えっ?正様??どうしてここに???」
戸惑っている芸者は姿かたちこそ芸者に見えるが、間違いなく宮ノ杜家使用人のはるであった。
「お前、はるか?それは私のセリフだ。なぜ使用人の貴様がここにいるのだ。」
思わず声を荒げる。
びくっと肩を震わせてはるはおそるおそるいう。
「えっとですね、茂様にお座敷に出る芸者の子が足りないから手伝ってほしいと言われまして…。一応、千富さんにも許可はもらっていて。ここで待っているようにと茂様に言われて待っていただけです。」
「また、芸者の真似事か。茂も全く。宮ノ杜家使用人をなんだと考えているんだ。」
額に手を添えて正は頭を抱える。
「あの、正様はどうして・・・」
「あぁ、私は茂に呼び出されてだな。紀夫もくるというから来たのだが。」
ネクタイを緩めながらどかっとはるの前の席に座る。
その姿は男の色気を醸し出しており、はるは見惚れてしまう。
「なんだ、人の顔をじろじろと。」
「い、いえ。お久しぶりだなと思って。」
はるが正の専属を外れてからほとんど正と顔を合わせることはなかった。
はる自身避けてきたし、千富やたえも気を使って会わないようにしてくれていたからだ。
「ふん、そうだな。紀夫のやつめ、遅いではないか。先に飲んでいるとするか。おい、酒を持ってこい。」
「はい、ただいま。」
はるは立ち上がって酒を取りに行く。
正は正で普段とは違う格好をしているはるに心を奪われていた。
しかし、自分から突き放した上にもうすぐ使用人をやめるはるを目の前にしてどうすればいいのかわからない。
ここは酒でも飲んで気を紛らわせるしかないのだ。
「お待たせしました。お注ぎします。」
はるは正の横に座ってお酌をはじめる。
「それと、あの、大変言いにくいことなのですが・・・」