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□堕ちて落ちて見せましょか
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白い羽根がはためく。
一面に色鮮やかな花々が咲き乱れた野原。
俺は、天界に住む者…
所謂天使、というやつだ。
天使には二通りある。一つは人間として生まれ、その死後に運命を選択する時に天使を選んで天使になるもの。もう一つは生まれつきの天使で、俺は後者である。
天使の仕事は、地上の人間や生き物を祝福すること。
これにも二通りあり、一瞬の祝福と、一生の加護がある。
まあ、天使にとっては一生も一瞬も大差ないのだけれど。
ある時、俺が一生の加護をしていた少女が老婆となり朽ちた頃、俺は別の少年の加護をすることになった。
その少年は、名を紫原敦と言った。
彼は、幼い頃、「大きくなりたい」と言った。
だから俺は、望み通りにした。
彼は、中学時代に「強くなりたい」と望んだ。
だから俺は、ギフトを贈った。
加護には代償がある。
それは夢。
といっても、将来像ではなく、夜、眠っているときに見る夢。
その夢の中で、加護をしている天使と逢う。否、会うことを強制されるのだ。
最初に逢ったのは、彼が3歳のころ。
「君は、だぁれ?」
敦は言う。
「俺は、天使。敦を守る天使さ。」
俺は言う。
「なんで俺の名前知ってるの?」
「俺は君を守る定めだからね。君のことは全部知っているよ。」
「ふーん。で、天使さんのお名前は?」
「氷室。氷室辰也…と呼ばれている。」
「じゃあ、室ちんだね。」
「…はは。」
「よろしく。」
次の日も、次の日も、夢の中で二人は逢った。
それは、今までの誰よりも楽しい時間だった。
けれど、敦も人間。
いつしか中学生に、高校生に、なっていった。
敦と共にいる間に、どうやら俺は、本気で敦を好きになってしまったらしいことに気がついた。
甘い笑顔に、学校であったことを話す顔に、バスケとやらについて語る口に、恋をしていた。惹かれていった。
好きになれば、欲しくなる。でも、欲しくなって、手に入れて、どうなるのか。簡単だ。おぼれてしまうだけ。
ある時、敦が問た。
「室ちんは、人間にはなれないの?」
「堕天すれば、可能性はあるんだ。が、難しい。」
「俺、室ちんと夢の中だけじゃない、日常で一緒にいたい。…室ちんは、願いを叶えられるんだよね。」
「お望みとあらば。」
「じゃあ、もし、室ちんが人間ななれたら、時間を戻して、俺と一緒に生きてくれる?」
「…よろこんで。」
嬉しかった。悲しかった。
好きな相手に、ずっと一緒にいたいだなんて言われたら、それは嬉しい。でも、堕天することはすべてを失うこと。自我も、敦のことも、忘れてしまう。
堕天するには、天界の端、闇の縁から堕ちればいい。ただ、堕ちるには欲が必要だ。でなければほかの天使に強制連行されてしまうから。
「…欲なら売るほどある。」
俺は、堕ちた。
「アツシ、今日の試合もよかったじゃないか。」
「別にー。負けたくなかっただけ。ごほーびにアイス奢ってー」
「はいはい。」
堕ちて落ちて見せましょか
(翼なんか要らないさ。俺と君は必ず逢える導きがあるのだから。)