想葬パラノイア

□想いを葬る 前
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思えばセトがマリーを連れてきたときに、
僕、キド、そしてセトの
「三人だけの幼馴染」という関係は崩れ始めたような気がする。


マリーの僕たちへの態度は、セトに対してのみ明らかに違った。
自分を世界に連れ出したのがセトなんだから、最初は当たり前かと思ったけど、
どうも違うんじゃないかと僕はだんだん思い始めた。
そしてある日、マリーがセトに向けた、頬を染め心を開ききったような笑顔を見て、
僕はマリーがセトのことを恋い慕っているとやっとのことで気がついたのだった。
あのときは、飄々とした笑顔を保つのに恐ろしい労力を要したものだった。

それは、幼馴染を取られたくない、というような可愛い思いではなかった。
何故だか胸の底に嫌な気分が渦巻き、マリーを応援してやれない自分を見て初めて、

「ああそうか、僕はセトが好きなんだ」

と莫大な甘酸っぱい感情を自覚した。
それはまったくもって強烈な衝撃だった。



とてもじゃないけど、笑って茶化す気にもなれやしなかった。
何しろ世間的に見ても、男であるセトを好くのに相応しくないのは、
どう考えても異端なのは、セトと同じ男である僕のほうなんだから。

それに引き換えマリーとくれば、誰もが認める可愛らしい容貌の「オンナノコ」だ。
ドジでヒキニートで頑固で世間ずれしているようなところだってあるけど、
それだって世話焼きなセトとだったら相性ぴったりと言ったところだろう。
メデューサという異種族である事実も、一度惚れてしまえば魅力にしか映らないに違いない。

じゃあ僕はどうだろう、と考えてみる。
いつもにやにやと笑って、ちっとも素直じゃなくて、人をからかうのが好きで、目つきが悪い、男。
……ああ駄目だ、絶対無理!
こんなスペックでセトに恋愛対象として見てもらおうだなんておこがましかった。
僕だって僕みたいな奴と付き合えるかと問われれば答えはNOだ。気持ち悪い。

……と、ハードルの高すぎる初恋は心に甘い嵐を吹き荒らしていくどころか、
僕をこの通りただの劣等感野郎になり下げてしまったのだった。



そして僕は決意した。
想いを自覚して三時間で決意した。
この想いを、セトへの想いを葬ることを。


誰にも相談すらできず、ひたすらに三時間考えに考え抜いて出した結論だった。
万が一、億が一の可能性でこの想いがセトに通じたとしても、その先に未来はない。
結婚はできない。遺伝子を遺せない。一時は幸せでも、辛くなるだけだ。
……今考えると、随分と大人ぶった正論だったと思うけど。


そして僕は葬った。
想いを自覚して三時間で葬った。
この想いに蓋をして、二度と世界に放たれないように。



マリーへのからかいは、他のみんなよりも少しだけ辛辣なままだけど……ま、これくらいは赦してよね。
これからは、君を応援してあげるからさ。


…………あー、ごめん、やっぱ無理かも。


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