BL短編

□ごーいんぐあわーうぇい
1ページ/1ページ






(配布期間は終了しています)

※セトカノ
※ほとんど設定だけですが、コノキド・シンエネ・ヒビモモです
※マリーちゃんごめんなさい
※捏造未来設定で10年後、27歳












薄暗闇の中、ゆらゆらと灯火が揺れる。

大きな灯が二つ、それを取り囲む小さな灯は七つ。合わせて九つだ。
熱が生み出す微かな陽炎に、カノはあの賑やかな夏の日を思い出す。
ほんの少しだけ懐かしい気持ちに浸り――それを一息に吹き消した。
光源を失った視界を楽しむと、蛍光灯が幾度か明滅して六畳間を照らす。
急に明るくなった部屋に思わず目を瞑り、数秒の後に見えたのは愛しい幼馴染の顔。
あの頃とはあまり変わっていないようにも見えるけれど、年齢に相応しい含蓄を備えた姿は、溌剌とした中に落ち着いた色気を持っている。
見つめる黄金色の目を細めて、セトは笑った。



「じゃ、カノの27回目の誕生日に、かんぱーい!」
「はいはい、ありがと。…そろそろ祝われるのが複雑な気分だよ」
「いよいよ俺たちもアラサーっすねぇ」

シャンパンの注がれたグラスを合わせ、口に含んだ。
アラサーという単語に一気にげんなりとなる。なんて憂鬱にさせられる響きだろうか。
いや、確かにその通りだがまだ二十代だ、と必死に自分を慰めるものの、
日々着実に距離を縮めてくる三十路というモンスターは足を緩めはしない。

「でもカノは27には全然見えないから大丈夫っすよ!どう贔屓目に見ても22、3がいいとこっすね」
「よく言われるけど、嬉しいような嬉しくないような…」
「カノ、ワガママっす」
「うわ、ごもっとも」

笑いながら、セトは手際よくホールケーキを切り分けていく。
『しゅうやくんおたんじょうびおめでとう』と書かれたプレートがやけに気恥ずかしい。
毎年のことではあるが、年に一回あるからといって慣れるようなものでもない。
何より、これを目の前の男が嬉々として買ってきたのだろうと考えると少し複雑な気分だ。
大きいロウソク二本小さいロウソク七本と共に購入された『しゅうやくん』と名前の入ったチョコプレートの載ったホールケーキ。
ケーキ屋の店員には、子供か弟に贈るものとでも思われただろうか…いや、普通に同年代の友達への嫌がらせともとれるだろう。大丈夫だ。

「……」
「カノ?食べないんすか?」
「あ、いや、ごめん。イタダキマス」
「めしあがれー」

手を合わせてからフォークをとり、チョコプレートが載ったケーキの苺を突き刺し、口に運ぶ。
その味は予想通り甘酸っぱい。生クリームを器用にすくい取り、更に甘みを口の中で混ぜ合わせる。



「そういえば、今日の会合はどうだったんすか?」
「ん、いつも通り…って言ったら変かな。いや、ええとね。みんな変わってたけど、変わってなかったよ」
「それだけでなんとなくわかるっす」

セトは苦笑した。瞼の裏に、光景を思い浮かべることも容易そうだった。

今日は既に解散したメカクシ団の元団員が集まる会合があった日だった。
同時にカノの誕生日でもあったため、ついでにカノの誕生日パーティーも決行された。
ケーキはセトと食べるから要らない、と言ったらひたすらにからかわれたが。

「十年前は想像もしなかったっすよね、自分たちの未来の姿なんて」
「そうだね。ぼんやり考えてはいたけど…」

もうひとりの幼馴染が愛する元団員と結婚し、子供も儲けて幸せにかかあ天下を満喫しているかと思えば、
二次ヲタコミュ障が有能な電脳秘書の力を借りて、ネットを通じた企業を大企業に成長させた社長になって、
デビュー当時の大根ぶりが冗談のような元アイドルの名女優は、年下との電撃結婚で世を震撼させるだなんて。

「ほんっと、想像もできなかったよ」

メカクシ団は設立の目的を果たし解散の運びとなったが、団員同士は今も深いつながりを持っていて、半年に一度会合の機会を設けている。
進む道は別れたけれど、絆はいつまでもそこにある。
特にエネとカノは、とある共通点がある故に、同じ不安をぶちまけ合える同志だった。

「(…キドとモモちゃん、羨ましいなぁ)」



「……カノ。…来なかった、…すよね」

微笑んでいたセトがふっと表情を消し、ぽつりと落とすように呟いた。
その瞬間にくだらない僻みや劣等感は思考の外に追い出される。
誰のことを指しているのかは、カノには一瞬でわかった。心がどんどん落ち込んでいくのを感じる。
その名前を口に出せばもれなく場の空気が重くなる、元メカクシ団員にとってのタブーだった。

「…うん。…きっと、向こうでうまくやってるって」
「そうっすかねえ。…引っ込み思案だったし…やっぱ、心配っす」

セトのため息と辛そうな顔。
生クリームが白い絵の具にでもなったかのように味を感じなくなってしまった。
…やっぱり、この話題はまだ少しこたえる。
それでも、メカクシ団のメンバーで集まって話していると、どうしても思い出してしまう。
十年前みたいに騒いでいれば、ひょっこりとおずおずと、白い髪を揺らし帰ってくるような気がして。

いなくなってしまったマリー。
きっとどこかで生きていると信じたいマリー。
その存在は、カノたちの中でも過去になりつつある。



はっと顔を上げると、セトはすっかり黙り込んでしまっていた。
この誕生日パーティーにはそぐわない重苦しい空気、まるでお通夜だ。
カノは甘口のスパークを一気にあおり、明るい声を出して話題を変える。


「あーあ、セトもくればよかったのに。酔っ払ったシンタローくんの一発芸も見てないんでしょ?勿体無いね、あれは爆笑ものだったよ!
カナタちゃんも可愛かったし、あれは将来コノハくん似の美人になるね!キドとモモちゃんがママトークで語り合ってたのにはビビったよ。それから、……っ!?」
「…カノ、ありがとっす」


怒涛の勢いで喋っていたカノの頭を、セトはくしゃくしゃと撫で回す。
カノは口をぽかんと間抜けに開けたままされるがままになっていたが、数秒でそっぽを向いた。

「…別に、お礼言われる筋合いないし」
「素直じゃないっすねえ」
「…もー、やめてよ。髪ぐしゃぐしゃになっちゃうじゃん」
「はっはっは、カノの髪は柔らかいっすねー。
あ、キドやシンタローさんには最近会ったし、俺はいいんすよ。次はちゃんと休みとって行くっすから」
「…え?キドとシンタローくんに会ったの?なんだ、言ってくれればよかったのに」
「……あ、あああ、いやいや!会ったは会ったっすけど、いや、ごめん、やっぱり会ってないかもしれないっす!」
「どっちだよ」

セトはぶんぶんと必死に首を振っている。何をそんなに隠したいことがあるのか。
別に突っ込むほどのことではないので、そのまま放置するが。
と、焦った顔のセトを見ていると、少しだけ悪戯心が湧きはじめる。
カノはにやりと笑って、スポンジを突き刺したフォークを手に取った。



「…ねえセト、あー」
「? あー……むっ」

セトの口の中に、親鳥よろしくケーキの欠片を入れてあげる。
するとセトはもぐもぐと咀嚼しており、嚥下すると再び口をかぱっと開けた。
…口を開けて待つその姿はまるで給餌を待つ雛鳥のようで、うっかり「可愛い」だなんて感想を目の前の大男に対して持ちそうになる。

「はい、あーん」
「あー」
「おいしい?」

こくこくと頷くセトに、思わず頬が緩む。
するとセトは自分もフォークでケーキを刺し、カノの口の前に差し出した。
自分も倣って口を開け、生クリームを口内に迎え入れる。

「んー、貰うのも嬉しいっすけど…俺はあげる方が好きかもしれないっすね」
「…っ、」

ふと気づくとセトの顔が目の前にあって、甘い唇が重ね合わせられる。
口腔を舌で一舐めし、セトはすぐに口を離した。
そして至極真面目な顔で、一言。


「生クリームの味がするっす」
「当たり前でしょ。…それとも、もっと甘いの、する?」


『しゅうやくんおたんじょうびおめでとう』と書かれたチョコプレートを齧り、カノは妖艶に笑った。





ロウソクの数はメカクシ団員の数といっしょ。
「カナタちゃん」はコノキドの子供です。遥か彼方、で安直に。

色々捏造ですみません…特にマリーちゃん本当にごめんなさい。
一応続きものの予定です。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ