BL短編

□鏡には映らない
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※カノシン前提白カノ×シン
※完全捏造、誰得













……『これ』は、一体何だ。

柔らかそうな黄褐色の髪、柑子色の大きな目、弧を描いた口元、軽薄な笑顔、男にしては低めの身長、
細っこくて頼りなさげな体つき、鎖骨まで見える襟刳りの深いシャツ、ごつめの黒いブーツ。
姿形や言動、何もかもが『あの人』に酷似している。

…いや、似てるなんてものじゃない。
鏡に映したように対称で、反転で、同一。
ただ相違点を挙げるとすればそれは二つのみ。

『あの人』が常用している灰色のパーカーをひっくり返したかのようなデザインの、白いパーカーを着ていること。
そして、同じ容姿から発せられる、全く違う異質な雰囲気。

「……誰だ、あんた」
「…ひどいなぁ、シンタローくん。僕は君の、愛しい愛しい彼氏さんだよ?」

笑みを作った口から吐かれるのは、ふざけたような口調の、『あの人』と同じ声。

……違う。
ああ、全てを賭けてもいい。
『これ』は『あの人』じゃない。


「お前は、誰だ」


気持ち悪い。冷や汗が滲む。
恐ろしいまでに不自然で、強烈な違和感。語気を強めてもう一度言うと、『それ』はふっと息を吐いたように見えた。

「……あーあ」

『あの人』に似せていたのだろう笑顔は、呆気なく消し去られる。
蜃気楼が融けだすように、陽炎が消えゆくように、何の感情も宿っていない瞳を俺に向けた。

「なんだ、案外早くバレちゃったな」

表情と声色が一変していた。
軽く明るく不真面目だった声色は、実にかったるい嘆息を混じえたものに変わっていて、
浮かべる無表情にも厭世的、というか単に面倒臭そうな雰囲気が色濃く漂っている。

なまじ『あの人』と見た目がそっくりなだけ、まるで無表情な『あの人』を目の前にしているようで混乱してしまう。
警戒を最大限に高めつつ、なんとか脳内で区別を付けようとしていると、『それ』は相変わらず気怠げに言った。

「でも、気付かない方が君の為だったかもね」

その瞳はまるで琥珀のような空虚で、刺すような俺の視線もまったく意に介していない。
俺は何か嫌な雰囲気を感じて口を開こうとしたが、しかしそれすらも『それ』は言葉を上書きするという形で遮った。


「勘違いでも、君の大好きな『カノ』でいられたんだからさ」


その言葉の意味を理解することも、俺にはかなわなかった。
あまりに唐突、身構える暇すらない刹那。



途方もない、莫大な衝撃が全身を襲った。


「っ…!?ぐ、う、」

この世の条理と俺の常識を越えた、抗いようもないあまりにも暴力的な眠気。
体中から力が抜け、小汚い路地裏に勢いよく崩れ落ちる。
吸いこまれるように眼球を覆う瞼は、瞬間接着剤でも使ったんじゃないかと疑いたくなるほどに開く気配を見せない。
抵抗の隙すらも与えずに、ただただ苛烈な昏倒が俺のあらゆる自由を奪い去る。

しかし意識が完全に持っていかれる寸前、

「僕は××××。鹿野修哉の鏡だよ」

というなんだかつまらなそうな声を聞いた気がして、そして俺の世界は暗転した。





誰得
「鏡には結ばない」「鏡には譲らない」という続編があるかと思いきや執筆する気はないです。ごめんなさい。
どなたかが続きを書いてくださることを期待します。

白カノさん=カノさんのドッペル的な何か



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