BL短編

□6年前の面影に恋する
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※ヒビカノで6年後
※細かいことは気にしない
















「……カノさん、なんか……縮みました?」
「うるさい黙れ迅速に縮め」

ついにヒビヤくんにまで身長を抜かれた僕の絶望、プライスレス。





昔はわちゃわちゃ若く青いことをしていた僕も、いつの間にか成人を迎えて23歳なんて年齢になってしまった。
大人になった自覚は、今もまだない。
アルコールやニコチンの味を覚えたときには大人になったような気もしたけれど、むしろあのとき精神年齢は下がったと思う。

ただ、高校生活を駆け抜ける16歳のヒビヤくんを見て「若いなあ」とか思ってる僕は、相当老けてきているのかもしれない。
…いやいや、僕23歳だし。人生まだまだこれからじゃん。大丈夫だよ、うん。

でも、部活に定期テストに塾に体育祭、なんてエネルギー溢れた現役高校生の近況報告を聞いていれば、
そんな風に思ってしまうのも仕方ないことじゃないだろうか。


「いつもは子供っぽいのに、そうしてるとなんかオヤジ臭いですよね、カノさん」
「……ああ、そうかもね。ヒビヤくんは相変わらず青臭いよ」

めでたく今年で高校一年生になったというヒビヤくんは、茶髪を揺らし皮肉げに笑ってみせた。
煙草の灰を落とし、火をもみ消す。未成年の前で吸いたくはない。
ベランダに出てニコチンを補給していた僕の元にわざわざ来て、何がしたいんだ。
……ああ、僕をからかいたいんだよね。
ヒビヤくんは、僕と本当によく似ている。
それでいて、僕より一枚上手なんだ。これはもう認めざるを得ない。

ヒビヤくんの生意気な態度は、初めて会った六年前からまったく衰えを見せない。
一応形ばかりにも敬語や敬称を扱うようになった分マシにはなっているが、
そこそこ整った見た目から吐かれる七色の毒舌は、今も様々な人の心を的確に抉る。
それは僕に対しても例外ではなく、付き合いが長い分その寸鉄はさらに容赦がない。

このヒビヤくんですら唯一頭が上がらないらしいヒヨリちゃんは、やはり相当な大物なのだろう。
何しろ、ヒビヤくんをして「女帝」と言わしめる人物だ。
僕もできればヒヨリちゃんにはあまり会いたくない。僕にとっての女帝はキドだけで充分に過ぎる。

「そんな青臭い年下に見下ろされる気分はどうですか?」
「……お陰様で最悪だよ」
「それはよかったです」

出会った頃は小さかったヒビヤくんも、さすが成長期と言うべきか、6年という時をかけてぐんぐんと大人びていった。
その代表となる、最もわかりやすい数値が身長である。
少なくとも三ヶ月前に会ったときは、まだ僕の方がギリギリ目線が高かった。
しかし今日会ってみたら、明らかに僕は見下ろされていた。

ほんの三ヶ月ばかりでこうもでかくなるとは。男子高校生なんてタケノコみたいなものだということを実感した。
あの時のヒビヤくんの嘲笑の表情を、僕は今もまだ忘れることができない。

「……ヒビヤくん、何センチ?」
「170cmです。カノさんは167でしたっけ…サバ読んでません?」
「やめて隣に立たないで」

高一で170だったら、きっとまだまだ伸びるだろう。もしかしたら180くらい行くかもしれない。

「あーあ、ヒビヤくんが最後の砦だったのに……」

女子組も僕を差し置いて身長を伸ばし、モモちゃんは166cm、キドは170cm。電子体のエネちゃんはさすがにノーカンだ。
マリーしか見下ろすことができないなんて、男としてどうかと思う。

「僕は嬉しいですけどね。ずっと目標でしたから」
「……僕を抜くのが?」
「はい」

そんないい笑顔で頷かれたら、こちらは苦い顔になるしかなかった。
それにしても、ヒビヤくんは本当に見目がいい。
利発そうな顔立ちはもう青年のものだけれど、幼い少年の面影を色濃く残している。
愛想のない仏頂面やシニカルな冷笑も、その整った造形にかかれば、ひどく魅力的に映ってしまう。

「ヒビヤくんさぁ、モテるでしょ」
「…は?」
「いやだから、モテるでしょ、って」
「……ああ」

単純に素直な感想だったのだが、ヒビヤくんは何故か怪訝な顔で聞き返し、目を逸らして一拍置いてから返事をした。

「まあ、そうですね。告白も何度かされてますし。…なんでそう思ったんですか?」

……「付き合ってる子とかいるの」とは、何故か喉が詰まって聞くことができなかった。

「……いや、男前になったなって、思っただけだよ」

ヒビヤくんの問いに、からかうこともできず正直に答えた瞬間なにか悔しく、気恥ずかしくなってしまった僕は、
「あのちっちゃかった小学生がこんなになったのかと思うと感慨深いね」と適当に付け加えた。
しかしヒビヤくんは、皮肉で返してくるだろうという僕の予想を見事に裏切り、にぃっ、と口の端を吊り上げた。

「ふぅん…」
「…何にやにやしてんのさ」
「いえ、……ずっと、目標だったんですよ」

それはさっきも聞いたけど、と言うと、ヒビヤくんはますますもって――色っぽく、笑った。

「ずっと、ずうっと、初めて会った時から……カノさんの身長を抜かしたら言おうって、考えてたんです」

久しぶりに、改めてしっかりと見たヒビヤくんの表情は、なんだかとてもかっこよく大人っぽくて、少しどきりとする。
子供、それも同性のヒビヤくんに対してそんなことを思ってしまった後ろめたさから視線を逸らそうとしたけれど、
熱くまっすぐに僕を見つめてくる瞳から目が離せない。



「カノさんが、好きです」

初めて会った時から、すきでした。

「子供」だったはずのヒビヤくんが真剣な表情で告げたその言葉は、僕の鼓膜を幸せに震わせた。




子供だったはずの君はいつの間にか大人になっていて、わざと目を背けて見ないでいた君を直視して初めて、この熱情を意識した。
みんなちょっとずつ背が伸びてるけど、カノさんだけ伸びてなかったらコンプレックス増し増しでかわいいなあ、と。
メカクシ団の高身長率がやばい…



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