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□お酒のちから
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待ち合わせ時間は7時のはずだった。
久しぶりに仕事が早く終わりそうだから、一緒に夕飯を食べに行こうと誘われたのだ。
でも既に時計の針は15分をさしている。
急いでいるわけじゃないし別にいいんだけど、何も連絡がないのは何かあったからなのだろうか。
ついそわそわしながら携帯の画面と改札を交互に見つめる。
事故とか、そういうのじゃなければいいんだけど。


“大丈夫?”
そうメールを送ろうとしたとき、ふいに後ろから両眼を塞がれた。

「わっ」

思わずそう声を上げると、ふふふという聞きなれた笑い声が耳元で聞こえる。
目を覆う手をゆっくりどけると、やっぱり声の主は真央だった。


「お待たせ〜。ごめんね遅くなっちゃって」
「ううん、大丈夫」
「連絡入れようと思ったんだけど、なんかその時間も惜しくて」
「そんな急がなくても大丈夫だったのに」
「ありがと」


真央の息が整うのを待って、駅から離れた。
並んで歩いていると、時折お互いの手の甲が当たって、どちらともなく手を繋ぐ。

友達よりは近い気がするけど、恋人という確証はない、そんな関係がもうずっと続いていた。
少なくとも嫌われてるとは思わないけど、確認するような勇気もない。
それにそんな一言でもしもこの手を握れなくなるのなら、今のままでいいなんて思ってしまう。


「ねぇ、どこ行く?」
「んー真央の行きたいところでいいよ」
「そうだなー‥‥あ、じゃああそこ行こう!」


そう言うと真央は私の手をぐっとひいた。
引っ張られるようにして後をついていく。
連れてかれたのは真央がいつも一人で来るという居酒屋だった。


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