short story

□素直になれない
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撮影が終わると周りに挨拶を済ませて、足早に現場を後にした。
携帯の時間を確認するとそろそろ11時をまわる。
まだ終電には余裕があるくらいだろう。
でも待ち合わせ時間には2時間過ぎている。

私は小さくため息をついた。
そういえば電車に乗るのは久しぶり。
そんなことを思いながらホームで電車が来るのを待った。





「‥‥まさかずっと待ってたの?」

早足で階段を駆け下りると改札の先に名無しの姿が見えた。
その姿を認めると歩調を少し遅くする。
振り返った彼女に、私はなんとも可愛くないことを言った。
頭の中では、ごめん、って何度もその一言をシミュレーションしていたのに。


「だって久しぶりにうちに来れるっていうから」
「家で待っててくれればよかったのに」
「だってほら、少しでも早く会いたいじゃん」

なんでもないようにそんなクサイ台詞を言う名無しに、私は思わず顔をしかめるようにして反らした。
照れ隠し。冬でよかった。
鼻や頬が赤いのを寒さのせいにできる。


「寒い。はやく帰ろう」

そうさっさと歩き出す私に、相変わらず名無しはにこにこして歩き出す。
とことこついてくる姿はまるで犬みたい。
可愛いやつめ。


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