黄瀬×テツナ(高校時代)

□最強キラー 3
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「よし、黄瀬ナイシュー」
「ども」
「じゃあ黄瀬くんはちょっと休んでていいわよ。また後で声かけるわ」
「はい、カントク」
いやいやいやいや。
火神は何度目か分からない瞬きをした。
ここ、誠凛だよな?なんて、当たり前過ぎる問いを投げ掛けたくて仕方ない。
「火神くん、遅刻ですよ」
「………なにあれ」
いつの間にか隣に来ていた黒子は火神と同じ方向を見る。
「あれは黄瀬くんという名前のワンコです」
ワンコか。そうか。
黄色いワンコは黒子っちーと、主人の名前を呼びながらこっちに来る。
「おー、火神っち。遅刻っスよ」
誰かこいつを殴る許可をくれないだろうか。


最強キラー 3


「なんでって…」
並んで立つ黄瀬と相田は一度顔を見合せて、再度火神を見た。
「暇だったから」
「暇そうだったから」
打ち合わせでもしたのかというくらいぴったり声が重なる。
「だからって…!」
「なによ。別に見られて困る練習をしている訳じゃないし、全国クラスの選手とプレー出来る機会なんてそうないんだから、使えるものは使わなきゃ損でしょ」
「そうっスよ。使えるものは使うべきっス」
ねー、と二人は顔を見合せるから、火神は露骨に嫌そうな顔になる。
「だから火神くんも相手してもらいなさい」
「え…」
相田が言うなり黄瀬はキラキラと目を輝かせる。
「火神っち、1on1しよう」
「…なんでそんな嬉しそうになんだよ」
「火神っちとの1on1は楽しくて好きっス」
黄瀬は眩しいくらいに笑って言う。
「倒しても倒しても向かってくる感じがありし日の自分と青峰っちのようで…超楽しい」
「嫌な楽しみ方してんじゃねぇよ!」
「俺に勝てるのは俺だけって感じっス」
「うるせー!」
言葉の応酬をしながら、火神と黄瀬はボールを奪い合う。
活き活きと動き回る黄瀬を見る相田の目は、誘拐犯のそれに近かった。
「あの身体能力に吸収力。限界の見えないのびしろ…。やっぱいいわぁキセキの世代…」
垂れ流しの欲望は留まることを知らなかった。
「―――黄瀬くん、ちょっと服脱いでみてくれない?」
火神がボールを落として振り返る。
「ちょっ…他校生にまで何言ってんすか!」
「いいっスよ」
「いいのかよ!」
早速シャツに手をかけて、黄瀬は動きを止めた。
「…どこまで脱げばいいっスか」
「むしろどこまで脱ぐ気だよ!」
「ポーズいる?」
「いらねぇよ!」
がくりと、火神は膝からその場に崩れ落ちた。
部活とは、ここまで疲れるものだっただろうか。


力なく体育館の壁に体を預ける火神の横に、ちょこんと黒子が座る。
眼前では元気なワンコがコートを走り回っている。
「…俺あいつキライ」
「カタコトになってますよ。火神くん」
黄瀬が鮮やかにシュートを決める。誠凛のメンバーが次々に賛辞を贈る。くすぐったそうに笑って、黄瀬がそれに応える。
「…でもあいつとするバスケは嫌いじゃない」
黒子は火神を振り仰ぐが、表情を確認するより前に火神は立ち上がった。
コートに歩み出た火神が二三話し掛けると、ボールを抱えた黄瀬が肩を竦めて笑う。つられるように、仏頂面だった火神が表情を弛める。
ついでにそのやり取りを見守っていた黒子も、口元を綻ばせた。
火神の陥落まで、多分あと少し。


fin 2012/11/14

黒子の影がどんどん薄くなるというミスディレクション。
すっかり火神の影です。

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